幹細胞治療

細胞の力で組織を修復し、健康を取り戻す

幹細胞治療とは、私たちの体に本来備わっている幹細胞という特別な細胞を使って、損傷した組織の修復や再生を促す先端医療です。

幹細胞は筋肉や神経、皮膚などあらゆる種類の細胞の「もと」になる細胞で、自分自身を複製して増やす自己複製能と、さまざまな細胞に変化する分化能を兼ね備えています。

これにより幹細胞は新しい細胞を次々と生み出し、傷ついた組織を置き換えたり周囲の細胞を活性化したりすることができます。

そのため、幹細胞は体が本来持つ「治る力」を引き出し、従来は治せなかったようなダメージの修復を可能にする再生医療の要として注目されています。

幹細胞の持つ再生能力と可能性

幹細胞は傷ついた組織や細胞を再生させる能力を持っています。
例えば、けがや病気で損なわれた組織に幹細胞が供給されると、その幹細胞が新しい細胞に分化して不足分を補ったり、周囲の細胞の修復を促したりします。

これにより、従来は治せなかったダメージを修復できる可能性が生まれます。
幹細胞の再生能力により、体が本来持っている治癒力(自然治癒力)を高めることが期待でき、将来的には臓器や組織の再生による根本的な治療への応用が見込まれています。

再生医療における幹細胞の役割

再生医療の分野では、幹細胞は中心的な役割を果たしています。
再生医療とは、病気やけがで損傷した組織や臓器を元通りに修復することを目指す先端医療のことです。

この分野において幹細胞は、新しい細胞や組織を作り出すエンジンとして機能し、神経や心臓、関節など様々な部位の治療に応用されています。
つまり幹細胞なくして再生医療は成り立たないと言っても過言ではなく、幹細胞は再生医療の鍵となる存在なのです。

幹細胞治療のメカニズム

幹細胞が体内でどのように働くのか

幹細胞治療では、体内に投与された幹細胞が傷ついた箇所や炎症が起きている箇所に集まって作用します。
幹細胞は体内を巡る中で、損傷部位から出るシグナル(「助けて」という合図のようなもの)をキャッチし、その場所に引き寄せられる性質があります。

この現象は専門的に「ホーミング(集積)効果」と呼ばれ、幹細胞が必要な場所に集まることで治療が始まります。
集まった幹細胞は、そこで新しい細胞に分化して入れ替わりに貢献したり、周囲に修復を促す物質を出したりしてダメージを受けた組織の修復に働きかけます。

免疫調整・炎症抑制・組織再生の仕組み

幹細胞が持つ主な作用メカニズムには、免疫調整、炎症の抑制、組織の再生の3つがあります。

  • 免疫調整:
    幹細胞は過剰になった免疫反応を落ち着かせたり、逆に弱った免疫をサポートしたりすることで、体の免疫バランスを整えます。これにより自己免疫疾患などで暴走した免疫反応を調節し、組織へのダメージを軽減します。
  • 炎症抑制:
    幹細胞は炎症を抑える物質(抗炎症サイトカインなど)を放出し、腫れや痛みを和らげます。炎症が収まると傷ついた部分の環境が改善され、治癒が進みやすくなります。
  • 組織再生:
    必要に応じて幹細胞自体が筋肉や神経などの細胞に分化し、失われた細胞を補充します。また幹細胞が出す成長因子によって、周囲の細胞の増殖や血管の新生が促され、組織の再建が進みます。これらの働きにより、損傷した組織そのものを再生・修復することが可能になります。

幹細胞治療のメリット(自然治癒力の活性化、根本治療の可能性など)

幹細胞治療には、従来の治療法にはないさまざまなメリットがあります。

  • 自然治癒力の活性化:
    外部から幹細胞を補うことで体本来の治る力を高め、自己治癒を促進します。薬剤のように症状を一時的に抑えるだけでなく、体が自ら修復する力を後押しします。
  • 根本治療の可能性:
    組織自体を再生・修復できるため、痛みや炎症だけを抑える対症療法ではなく、病気やケガの原因となっている組織の損傷そのものにアプローチできます。例えば、変形性関節症で擦り減った軟骨を再生させることで、根本的な改善が期待できます。
  • 低侵襲で安全:
    幹細胞治療は注射や点滴で行うことが多く、メスを入れる大きな手術を伴いません。そのため体への負担が少なく、リスクも比較的低いとされています。入院を必要としないケースも多く、患者様の負担が軽減されます。
  • 多様な疾患への応用:
    幹細胞の作用は全身の様々な組織に及ぶため、整形外科領域から神経疾患、免疫疾患、さらには美容分野にまで幅広く応用が検討されています。一つの治療法で複数の効果(組織修復や免疫調整など)を兼ね備えている点もメリットです。

幹細胞の種類と特性

幹細胞にはいくつかの種類があり、その由来(どこから採取されるか)によって特性や治療への活用法が異なります。
再生医療でよく使われるのは主に「間葉系幹細胞(MSC)」と呼ばれるタイプで、骨髄や脂肪、臍帯(へその緒)など様々な組織に存在します。

骨髄由来幹細胞

骨髄由来の幹細胞は、その名の通り骨の内部にある骨髄から採取される幹細胞です。従来、この骨髄由来幹細胞が再生医療の中心的な存在でした。
骨髄からは患者自身の幹細胞を採取(主に骨盤の骨から針で骨髄液を採取)し、これを培養して増やしてから体内に戻す治療が行われます。

骨髄幹細胞は自己複製能力と分化能力のバランスが良いとされ、免疫を調節する働きも持つため、自己免疫疾患(例えば関節リウマチなど)の研究にも活用されてきました。

ただし、骨髄の採取は局所麻酔下でもやや侵襲が大きく患者様の負担となる点や、加齢に伴い幹細胞の数や活性が減少する点が課題です。
現在では、より手軽に採取できる他の源泉からの幹細胞利用も進んでいます。

脂肪由来幹細胞

脂肪由来の幹細胞は、皮下脂肪から採取される幹細胞です。
腹部などから少量の脂肪を採取するだけで大量の幹細胞を得られることが大きな利点です(脂肪には骨髄よりも高密度に幹細胞が含まれています)。

脂肪採取は局所麻酔で行えるため体への負担も小さく、患者様自身の脂肪を用いる自家幹細胞療法として美容医療や関節疾患の治療に応用が広がっています。
脂肪由来幹細胞は増殖が速く培養しやすい特性があり、比較的短期間で必要な細胞数を確保できます。また抗炎症作用にも優れているため、膝関節の炎症緩和や創傷治癒の促進などへの効果が期待されます。

ただし、分化できる細胞の種類は骨髄由来などに比べてやや限られるという報告もあり、適材適所で使い分けることが重要です。

ウォートンジェリー幹細胞(臍帯由来幹細胞)

ウォートンジェリー幹細胞とは、新生児の臍帯(へその緒)の中にあるワルトンの膠質(Wharton’s Jelly)と呼ばれるゼリー状の組織から採取される幹細胞です。
臍帯由来の幹細胞は俗に「0歳の細胞」とも言われ、赤ちゃん由来であるため細胞がとても若く活力に満ちています。

その特長は他の幹細胞と比べても際立っており、自己増殖能力が非常に高いため培養で大量に増やしやすく、分化できる細胞の幅も広いことが知られています。

また免疫的な拒絶反応を起こしにくい性質(免疫原性の低さ)を持つため、提供者(ドナー)の細胞を他の患者様に投与する他家幹細胞療法にも適しています。

臍帯は出産時に捨てられてしまう組織であり、そこからの細胞利用は倫理的な問題も少なくドナーへの負担もありません。
こうした理由から、ウォートンジェリー由来の幹細胞は安全性が高く質の高い幹細胞として世界的に再生医療の現場で注目されています

幹細胞の比較表
採取の容易さ 増殖能力 分化能力 免疫調整能力 使用形態
(自家/他家)
骨髄由来幹細胞 難しい 他家
脂肪由来幹細胞 普通 低~中 主に自家
ウォートンジェリー幹細胞
(臍帯由来)
容易 非常に高い 非常に高い 他家
ウォートンジェリー幹細胞について
詳しくはこちら

幹細胞治療の適応分野

幹細胞治療が適応される疾患・症状

幹細胞治療は、その再生能力や免疫調整力を活かして幅広い疾患や症状への応用が期待されています。
具体的な分野や疾患の例を挙げると次のとおりです。

  • 神経系の疾患:
    パーキンソン病や脊髄損傷、脳卒中後遺症など、神経細胞の損傷や変性による疾患への応用が研究されています。失われた神経組織の再生や機能回復を目指します。
  • 整形外科系の疾患:
    変形性関節症(膝や股関節の軟骨すり減り)や骨折の治りが遅いケース、靭帯・腱の損傷など、運動器の修復に幹細胞治療が期待されています。軟骨や骨の再生、炎症の軽減による痛みの緩和が目的です。
  • 免疫異常・自己免疫疾患:
    関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、クローン病、シェーグレン症候群など、自分の免疫が自分の体を攻撃してしまう疾患に対し、免疫調整作用を活かした治療が検討されています。免疫の暴走を抑えることで症状の改善を図ります。
  • 心臓・血管系の疾患:
    心筋梗塞後の心機能低下や下肢の重度虚血(血流障害)など、循環器領域でも幹細胞治療の研究が進んでいます。ダメージを受けた心筋の再生や新たな血管形成による血流改善などが期待されます。
  • 代謝疾患・内分泌疾患:
    1型糖尿病(自己免疫で膵臓の細胞が破壊される病気)への幹細胞療法の研究も行われています。幹細胞からインスリンを出す細胞への分化誘導や、免疫調整による膵島細胞の保護など、多角的なアプローチが模索されています。
  • 美容・エイジングケア:
    医療分野以外にも、アンチエイジング目的で幹細胞治療を受けるケースもあります。肌の再生(シワや傷跡の改善)、毛髪の再生(薄毛治療)など、美容領域での応用も注目されています。幹細胞の再生力で細胞レベルから若返りを図るという発想です。

期待できる治療効果(組織修復・免疫調整・エイジングケアなど)

上記のような疾患・分野で、幹細胞治療によって具体的にどのような効果が期待できるかをまとめます。

  • 組織修復・機能回復:
    損傷した組織そのものを修復し、臓器や部位の機能を取り戻す効果が期待できます。たとえば麻痺した箇所の筋肉や神経が再生して動きが改善したり、傷んだ軟骨が再生して関節の可動域や痛みが改善したりする可能性があります。
  • 炎症・痛みの軽減:
    幹細胞の抗炎症作用により、患部の炎症を鎮めて痛みや腫れを和らげます。慢性的な痛みや炎症が続く疾患でも、幹細胞治療によって症状の緩和が期待できます。
  • 免疫バランスの調整:
    免疫系に働きかけることで、自己免疫疾患などでは異常な免疫反応を抑え、病状の悪化を防ぐ効果が見込まれます。また免疫力の低下した状態では免疫細胞を活性化するよう促し、感染症への抵抗力を高めるといった作用も報告されています。
  • エイジングケア・アンチエイジング:
    幹細胞の若返り効果により、老化による細胞機能の低下を食い止めたり改善したりすることが期待されます。具体的には、肌のハリ・ツヤの向上、毛髪のボリュームアップ、疲労回復や活力向上など、全身の若返り・健康増進につながる効果が注目されています。
  • 生活の質(QOL)の向上:
    上記の効果により、これまで日常生活に支障をきたしていた症状が和らぎ、患者様の生活の質が向上することが期待できます。痛みが減って歩けるようになる、症状が安定して仕事や趣味に取り組めるようになる、といったQOL向上も大きな目標の一つです。

幹細胞治療の方法

投与方法(点滴・局所注射・関節内注射など)

幹細胞治療では、患者様の症状や疾患に合わせて幹細胞の投与方法(体内への入れ方)を選択します。
主な投与方法は以下のとおりです。

  • 点滴(静脈内投与):
    点滴による投与は腕の静脈などから幹細胞を点滴でゆっくりと体内に送り込む方法です。幹細胞が全身を巡るため、複数の部位に効果を及ぼしたい場合や、全身的な免疫調整・エイジングケア目的の場合によく用いられます。比較的短時間で施術が完了し、痛みも採血程度の少ない負担で済みます。
  • 局所注射:
    患部への直接注射とも言い、治療したい部位の近くに幹細胞を直接送り込む方法です。例えば皮膚の傷跡に幹細胞を注射して皮膚再生を促すケースや、心筋梗塞後の心臓にカテーテルで直接幹細胞を送り込むケースなどがあります。局所に高濃度の幹細胞を届けられるため、ピンポイントでの組織修復に適しています。
  • 関節内注射:
    関節の中への注射で、主に膝や股関節などの関節疾患に対して行われます。変形性関節症で擦り減った軟骨のある関節腔に幹細胞を注入し、軟骨の再生や関節液の改善による痛みの軽減を図ります。関節鏡(内視鏡)を使わず注射器で済む場合がほとんどで、外来でも可能な低侵襲の治療法です。
  • その他の投与経路:
    病態によっては特殊な方法も取られます。例えば中枢神経系の疾患では、脊髄の周囲(髄腔内)に幹細胞を注入する方法が臨床研究で試みられています。また、肝臓など臓器によっては動脈を介してカテーテルで幹細胞を送り届けるケースもあります。患者様一人ひとりの状態に合わせ、最適な経路で幹細胞を届けることが重要です。

※当院では、専門医が患者様の症状に最も適した投与経路と必要細胞数を判断し、オーダーメイドの幹細胞治療プランをご提案しています。

幹細胞治療の安全性について

幹細胞治療の安全性の基本情報

幹細胞治療は先進的な医療ではありますが、安全性に関するエビデンス(科学的な証拠)は蓄積されつつあります。
これまで世界各地で行われた多くの臨床研究において、幹細胞(特に間葉系幹細胞)を用いた治療で重大な副作用は非常に少ないことが報告されています。

例えば、ある統合解析では急性の毒性反応や腫瘍化(がん化)、重篤なアレルギー反応などの深刻な有害事象は認められず、安全に投与できるとの結果が示されています。
特に臍帯由来の幹細胞(ウォートンジェリーMSC)は免疫拒絶が起こりにくく抗炎症作用も強いため、安全性と治療効果の両面で優れているとされています。

実際の臨床現場でも、点滴直後に一時的な発熱や倦怠感が見られる程度で、長期的に問題となる副作用はほとんど報告されていません。
こうしたことから、適切に管理された環境下で実施される幹細胞治療は、安全性の高い医療といえます。

品質管理の取り組み

幹細胞治療の安全性を確保するためには、細胞の品質管理が非常に重要です。
投与される幹細胞そのものが高品質でなければ、期待する効果が得られないばかりか思わぬリスクにつながる可能性もあります。

当院では、細胞培養の国際基準であるcGMPに準拠したクリーンルーム施設内で、徹底した無菌操作とウイルス・細菌検査を実施し、安全が確認された細胞だけを患者様に提供しています。

また、培養した幹細胞は治療に用いる前に第三者機関での品質試験を経ており、多角的なチェック体制を整えています。
さらに、ドナー由来の幹細胞を扱う場合はドナーの感染症スクリーニングや細胞の遺伝子検査なども厳格に行い、安全性に万全を期しています。

これらの品質管理の詳細については下記ページにて紹介しております

23Cの細胞培養施設について
詳しくはこちら

幹細胞治療は、体が本来持つ「治る力」を引き出し、損傷した組織の修復や免疫バランスの調整を行う先端医療です。
従来の対症療法とは異なり、組織の再生を促し、根本的な回復を目指す点が大きな特長です。

特にウォートンジェリー幹細胞は、高い増殖能力と若さ、安全性を兼ね備えた幹細胞として、世界的にも注目されています。
手術を伴わない投与方法で、体への負担を抑えながら再生医療の恩恵を受けられる点も大きなメリットです。

当院では、最新の研究と厳格な品質管理に基づいた幹細胞治療を提供しております。
患者様一人ひとりの症状に合わせた最適な治療プランをご提案し、安全性を最優先に考えながら施術を行っています。