関節リウマチは、自分の免疫が関節を攻撃してしまう難治性の自己免疫疾患です。
近年の薬物療法の進歩で多くの患者さんが症状コントロールや寛解を達成できるようになりましたが、それでも病気そのものを根治することは難しく、壊れてしまった関節を元通りに修復することもできません。
さらに免疫を抑える治療のため副作用のリスクや、患者によっては十分な効果が得られないケースもあり、その点が現在の課題とされています。こうした中、新たな再生医療として注目されているのが幹細胞治療です。
幹細胞治療は、過剰になった免疫バランスを調整し、損傷した組織の修復環境を整える可能性が研究されている、従来とは異なるアプローチの治療法です。
関節リウマチでは関節内と免疫で何が起きているのか
関節リウマチは、単なる関節痛や加齢による関節のすり減りではありません。本来は細菌やウイルスなどから体を守るはずの免疫が、自分自身の関節を包む「滑膜」を攻撃してしまう自己免疫疾患です。
滑膜は、関節の内側を覆っている薄い膜で、関節液を作り、関節がなめらかに動くように助けています。しかし関節リウマチでは、この滑膜に免疫細胞が集まり、慢性的な炎症が起こります。
関節を車の部品に例えるなら、滑膜は関節の動きをなめらかにする潤滑システムのような存在です。この潤滑システムに炎症が起こることで、痛み、腫れ、こわばりが生じ、やがて軟骨や骨にもダメージが広がっていきます。
自己免疫によって滑膜炎が続く
関節リウマチでは、T細胞、B細胞、マクロファージなどの免疫細胞が滑膜に集まり、炎症を長引かせます。B細胞はリウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体といった自己抗体に関わり、免疫反応をさらに複雑にします。
リウマトイド因子や抗CCP抗体は、関節リウマチの診断や病気の活動性を評価するうえで重要な手がかりになります。特に抗CCP抗体は、関節破壊の進行リスクと関連することが知られており、早期診断でも重視されます。
このように関節リウマチでは、関節の中だけでなく、全身の免疫システムが関わっています。そのため、痛みのある関節だけを治療するのではなく、免疫の過剰な働きをどう調整するかが重要になります。
滑膜炎が進むとパンヌスが関節を破壊する
滑膜炎が長く続くと、滑膜は厚く増殖し、「パンヌス」と呼ばれる炎症性の組織を形成します。パンヌスは、正常な滑膜とは異なり、軟骨や骨に入り込むように広がり、関節破壊を進めていきます。
パンヌスは、関節の中にできる“炎症の膜”のようなものです。この膜が軟骨の表面に覆いかぶさり、軟骨を分解する酵素や炎症性サイトカインを放出することで、関節のクッションである軟骨が少しずつ傷んでいきます。
さらにパンヌスは骨の表面にも影響を与え、骨びらんと呼ばれる骨の欠損を引き起こすことがあります。骨びらんが進むと、関節の変形や可動域制限、日常生活動作の低下につながります。
TNF-α・IL-6・IL-17などの炎症性サイトカインが関節破壊を進める
関節リウマチの炎症では、TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-17などの炎症性サイトカインが重要な役割を持っています。サイトカインは、免疫細胞同士が情報を伝える“連絡信号”のような物質です。
本来、サイトカインは体を守るために必要ですが、関節リウマチではこの連絡信号が過剰になり、炎症が止まりにくい状態になります。TNF-αやIL-6は滑膜炎を強め、痛みや腫れ、全身倦怠感にも関わります。
また、IL-17を分泌するTh17細胞は、滑膜の炎症や骨破壊に関与すると考えられています。一方で、免疫の暴走を抑える制御性T細胞(Treg)の働きが十分でないと、炎症を抑えきれず、関節内の炎症環境が続きやすくなります。
RANKLと破骨細胞が骨びらんを引き起こす
関節リウマチで関節が変形していく大きな理由のひとつが、破骨細胞の活性化です。破骨細胞は、古くなった骨を壊して新しい骨へ作り替えるために必要な細胞ですが、過剰に働くと骨を壊しすぎてしまいます。
滑膜炎が続くと、滑膜線維芽細胞や免疫細胞からRANKLという物質が増え、破骨細胞が活性化されます。その結果、骨の表面が削られるように破壊され、骨びらんが進行します。
つまり関節リウマチでは、「滑膜炎が続く」「パンヌスが軟骨や骨へ侵入する」「炎症性サイトカインが増える」「破骨細胞が骨を壊す」という流れが重なり、関節破壊が進んでいくのです。
関節リウマチは全身にも影響する
関節リウマチは関節だけの病気ではありません。慢性的な炎症が続くことで、貧血、倦怠感、微熱、体重減少などの全身症状が出ることがあります。
また、炎症が血管や肺、心臓などに影響することもあり、間質性肺疾患、血管炎、心血管疾患などの合併症が問題になる場合もあります。
そのため関節リウマチでは、関節の痛みを抑えるだけでなく、全身の炎症と免疫バランスを適切に管理することが重要です。
なぜ関節リウマチでMSC療法が注目されるのか
現在の関節リウマチ治療では、メトトレキサート、ステロイド、生物学的製剤、JAK阻害薬などによって炎症や免疫反応を抑える治療が行われています。これらの治療により多くの患者で症状の改善が期待できますが、十分な効果が得られない場合や、副作用、長期使用の課題が残る場合もあります。
そこで注目されているのが、間葉系幹細胞(MSC)を用いた再生医療です。MSCは、炎症性サイトカインの過剰な働きを抑え、T細胞、B細胞、マクロファージなどの免疫細胞のバランスを調整する可能性が研究されています。
特にウォートンジェリー由来間葉系幹細胞(WJ-MSC)は、臍帯由来の若い細胞として、免疫調整作用、抗炎症作用、成長因子やサイトカインなどを含むセクレトームを介したパラクリン作用が期待されています。関節リウマチに対するWJ-MSC療法は、痛みを一時的に抑えるだけでなく、滑膜炎や免疫異常、炎症性サイトカインの悪循環に働きかける可能性がある点で研究されています。
POINT
- 関節リウマチは、免疫が自分の滑膜を攻撃してしまう自己免疫疾患です。
- 滑膜炎が続くと、パンヌスという炎症性組織が形成され、軟骨や骨へダメージが広がります。
- TNF-α、IL-6、IL-17などの炎症性サイトカインが、痛み、腫れ、関節破壊に関わります。
- RANKLによって破骨細胞が活性化されると、骨びらんが進み、関節変形につながることがあります。
- 関節リウマチは関節だけでなく、全身の炎症や合併症にも注意が必要な疾患です。
- WJ-MSC療法は、免疫調整作用、抗炎症作用、セクレトームを介したパラクリン作用によって、関節リウマチの病態に働きかける可能性が研究されています。
関節リウマチとは?現在の治療法と残る課題
関節リウマチ(RA)は免疫の異常によって関節に慢性的な炎症が起こる病気です。日本では人口の約1%(100人に1人)が罹患するとされ、特に女性に多く発症します。
主な症状は関節の痛み・腫れ・こわばりで、朝起きたときに手指がこわばる朝のこわばりが典型的です。炎症が続くと軟骨や骨が破壊され、関節の変形や可動域の制限を生じます。
進行した場合、指が曲がったまま伸びなくなったり、関節が変形して日常生活に支障をきたすこともあります。
こうした関節破壊による機能障害は、患者さんの生活の質(QOL)を大きく低下させ、重症例では就労が困難になったり介護が必要になるケースもあります。
現在主流の薬物療法とその成果
関節リウマチの治療法としては、これまで消炎鎮痛剤(痛み止め)やメトトレキサート(MTX)などの従来型抗リウマチ薬、さらには生物学的製剤(抗TNFα抗体やIL-6受容体阻害剤など)が用いられてきました。
1990年代以降、MTXや生物学的製剤の登場により治療成績は飛躍的に向上し、関節リウマチは「治らない病気」ではなく「治療で寛解を目指せる病気」へと変わりつつあります。
例えば、生物学的製剤インフリキシマブを1年間投与した臨床研究では約38%の患者が寛解または低疾患活動性を達成し、58%の患者で関節破壊の進行が止められたとの報告があります。
早期から適切な薬物治療を行うことで、多くの患者さんが症状の大幅な改善を得られるようになりました。
いまだ克服されていない課題
しかし一方で、現在利用できる治療薬によっても完治には至らないのが現状です。薬で炎症を抑えても自己免疫の原因そのものを取り除くことは難しく、既に障害された関節を元通りに修復する治療法は確立されていません。
関節破壊の進行自体は食い止められても、破壊されてしまった軟骨や骨が自然に再生することはないため、長年病気を患い関節に重度の損傷が蓄積してしまった患者さんでは、最新の薬物治療をもってしてもなお機能障害が残る場合があります。
さらに、現在主流の薬物療法は免疫の働きを抑えるため感染症など副作用のリスクを伴い、治療を継続する上での負担になります。それにもかかわらず、患者さんの20〜40%程度(報告により30〜50%)は既存の治療では十分な効果が得られないとも言われています。
このように、「免疫の過剰な働きをどう調整するか」「損傷した関節組織の修復環境をどう整えるか」という関節リウマチ治療の課題は依然残されたままであり、これを解決する新たなアプローチが求められてきました。
POINT
- 自己免疫の異常により関節に慢性的な炎症が起こります。
- 軟骨や骨の破壊が進行すると、関節機能が低下し生活の質(QOL)が損なわれます。
- 従来の薬物療法では症状の寛解は目指せますが、根治は困難です。
- 副作用のリスクや十分な効果が得られないケースもあり、新たな治療法が求められています。
再生医療の新たな可能性:幹細胞治療が注目される理由
近年、関節リウマチに対する新たな治療法として「幹細胞治療」が注目を集めています。
幹細胞治療は、患者さん自身または提供者から採取した幹細胞を体内に投与し、その再生能力や免疫調整力を活かして病状の改善を図る治療法です。免疫の異常を穏やかに整え、損傷した組織の修復や再生を促すほか、炎症の抑制やパラクリン作用(細胞間のシグナル伝達)など、複数のメカニズムで治療効果を発揮する多機能な再生医療として注目されています。
幹細胞にはさまざまな種類がありますが、関節リウマチで特に注目されているのが間葉系幹細胞(MSC)です。MSCは、骨髄・脂肪・臍帯(へその緒)などに存在し、骨や軟骨に分化できるだけでなく、免疫の異常な働きを整える機能も備えています。
このため、単に免疫を抑えるのではなく、過剰な免疫反応を穏やかにコントロールすることで、関節リウマチの病態に多面的に働きかけることが期待されています。また、MSCは傷ついた軟骨や骨などの修復環境を整える可能性も研究されており、関節リウマチの原因(免疫異常)と結果(関節破壊)の両方に働きかけられる点が大きな特長です。
こうした特徴から、MSCは「攻め(修復環境のサポート)」と「守り(免疫調整)」の両方を担う次世代の治療戦略として、世界中で研究と応用が進められています。
ウォートンジェリー由来MSCの特徴とは?
MSCは、主に脂肪組織、骨髄、臍帯(ウォートンジェリー)などから採取されます。このうち、出産時に自然に得られる臍帯由来MSC(WJ-MSC)は、採取に痛みやリスクが伴わない非侵襲的な方法で得られることに加え、倫理的な観点でも受け入れやすい細胞ソースとして評価されています。
ウォートンジェリー由来MSCは、臍帯由来の若い細胞であり、増殖能や免疫調整作用、抗炎症作用が研究されています。また、成長因子やサイトカインなどを含むセクレトームを介して、炎症環境や組織修復環境に働きかける可能性も注目されています。
さらに、WJ-MSCは患者さん自身から骨髄や脂肪を採取する必要がないため、採取に伴う身体的負担を避けやすい細胞ソースです。安定した品質の細胞を確保しやすい点でも、再生医療への応用が研究されています。
このような特長から、臍帯由来MSCは、関節リウマチをはじめとする免疫・炎症系疾患への応用において、有力な選択肢として注目を集めています。
POINT
- 幹細胞治療は、再生能力と免疫調整作用を活かした多機能な治療法です。
- 間葉系幹細胞(MSC)は、自己免疫疾患である関節リウマチに対して研究が進められています。
- MSCは免疫の異常を穏やかに整えると同時に、軟骨や骨の修復環境を整える可能性があります。
- 臍帯由来のウォートンジェリーMSCは、非侵襲的に採取できる上、細胞が若く、免疫調整作用や抗炎症作用が研究されています。
- WJ-MSCは、セクレトームを介して関節リウマチの炎症環境に働きかける可能性が注目されています。
幹細胞治療は関節リウマチにどう効くのか?~3つの作用メカニズム~
MSC(間葉系幹細胞)は、過剰になった自己免疫を調整し、抗炎症作用で関節の炎症環境に働きかけ、損傷した軟骨・骨の修復環境を支えるという3段構えの作用で関節リウマチに関与する可能性が研究されています。
従来の薬剤が炎症を抑えることに注力していたのに対し、MSCは免疫バランス、炎症性サイトカイン、組織修復環境という複数の方向から病態に働きかける点で注目されています。
免疫バランスの調整
─ 暴走した免疫反応にブレーキ
関節リウマチでは、本来身体を守るはずの免疫が誤作動を起こし、自らの関節を攻撃してしまいます。MSCにはこの「免疫の暴走」を穏やかに鎮め、バランスを整える作用が期待されています。
具体的には、炎症を引き起こすT細胞(Th17細胞やTh1細胞など)の過剰な活性を抑え、逆に免疫を抑制する制御性T細胞(Treg細胞)の働きを高める可能性が研究されています。
さらに、抗体を産生するB細胞にも作用し、関節リウマチの病態に関わる自己抗体の産生を調整する可能性も報告されています。
このようにMSCは、暴走状態にある免疫系を落ち着かせる“調整役”として働く可能性があります。ブレーキの壊れた暴走車に対して、MSCがブレーキをかけてスピードを落ち着かせる──そんなイメージです。
抗炎症作用
─ サイトカインによる炎症鎮静
MSCは、サイトカインや成長因子といった有効物質を分泌することで、炎症を鎮める方向へ働く可能性があります。これらの分泌物は「セクレトーム」と総称され、関節内の過剰な免疫反応に働きかける重要な要素として研究されています。
たとえば、MSCが分泌するインターロイキン10(IL-10)やプロスタグランジンE2(PGE2)、TGF-βなどは、炎症を促すサイトカインの産生を抑え、関節で続いている炎症の連鎖を弱める可能性があります。
このような働きは「パラクリン効果(傍分泌作用)」と呼ばれ、MSC治療の重要なメカニズムのひとつです。
簡単に言えば、MSCは“消火剤”のように炎症という火事を鎮める役割を担う可能性があり、これにより関節の痛みや腫れの軽減が期待されています。
組織修復の促進
─ 傷んだ軟骨・骨の修復環境を助ける
MSCには、傷ついた関節組織の修復環境を整える働きが期待されています。必要に応じて、MSC自体が軟骨細胞や骨芽細胞などに分化したり、周囲の細胞の再生を助ける成長因子を分泌したりすることで、関節の構造的な回復をサポートする可能性があります。
関節リウマチでは、炎症によって軟骨や骨が破壊されますが、MSCはそれらの修復環境を整える可能性があります。
実際、臍帯由来MSCを軟骨形成に適した条件下で培養した研究では、関節軟骨の主要成分であるコラーゲンやプロテオグリカンを産生し、軟骨細胞への分化能を示した報告があります。
さらに、骨の形成を促す因子も分泌するため、骨欠損の修復環境にも関与する可能性が期待されています。言い換えれば、MSCは壊れてしまった関節組織の修復を手助けする役割も担える可能性があるのです。
以上のように、MSCは免疫の異常を調整し、炎症を抑え、組織修復環境を整えるという多面的な働きにより、関節リウマチの病態に包括的に作用する可能性があります。
この特性ゆえに、従来の治療では十分に対応しきれなかった課題に対する新たな治療戦略として期待されているのです。
POINT
- MSCは、過剰な免疫反応を整え、自己免疫による関節破壊に働きかける可能性があります。
- 抗炎症物質を分泌し、関節内の炎症環境を調整する可能性があります。
- 軟骨や骨の修復を助ける因子を出し、組織修復環境にも寄与する可能性があります。
- 原因(免疫異常)と結果(組織破壊)の両方に働きかける点が特徴です。
リウマチの専門家・
からだ回復センター千葉の板倉先生
リウマチに関する知識と経験が豊富で、YouTubeでも数多くの発信を行っている板倉先生が、23Cでの幹細胞治療ご協力くださっています。
日頃から多くの方に信頼されており、非常に心強いパートナーです。
難治性RAに対する臨床研究が示すMSC治療の期待される治療効果
これまでの薬が効きにくい関節リウマチ(RA)の患者さんに対しても、間葉系幹細胞(MSC)による治療は、症状の改善や炎症の抑制に関与する可能性が国内外の臨床研究で報告されています。
特に、臍帯由来MSCを用いた研究では、疾患活動性、生活機能、炎症マーカー、免疫バランスなどに関する指標の変化が評価されています。
活動性RAに対する臍帯由来MSCの臨床研究
活動性関節リウマチ患者を対象とした臍帯由来MSCの臨床研究では、DMARDsとUC-MSCを併用した群で、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインの低下、制御性T細胞(Treg)の増加、DAS28やHAQなどの疾患活動性・生活機能指標の改善が報告されています。
また、重篤な有害事象は認められず、安全性についても前向きな結果が示されています。ただし、臨床応用にはさらに大規模で長期的な検証が必要です。
臍帯由来MSCとDMARDs併用療法の長期評価
別の前向き第I/II相臨床研究では、関節リウマチ患者64人に対して臍帯由来MSCとDMARDsの併用療法が行われ、1年後および3年後のDAS28、HAQ、ESR、CRP、RF、抗CCP抗体などが評価されました。
その結果、疾患活動性や生活機能、炎症マーカー、自己抗体に関する指標で前向きな変化が報告され、安全性についても大きな問題は認められていません。
免疫細胞や滑膜細胞への作用に関する基礎研究
基礎研究では、臍帯由来MSCが関節リウマチ患者由来のTh17細胞に作用し、IL-17、TNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインを調整する可能性が示されています。
また、滑膜線維芽細胞やCadherin-11など、滑膜増殖や関節破壊に関わる病態へ作用する可能性も研究されています。これらの知見は、臍帯由来MSCやWJ-MSCが関節リウマチの免疫異常・滑膜炎・関節破壊に多面的に関与する可能性を示すものです。
これらの臨床研究では、臍帯由来MSCを使った幹細胞治療が「薬が効きにくい関節リウマチ」に対しても新しい治療選択肢になり得ることが示されています。
関節の炎症や痛み、病気の活動性、生活機能に関する指標で前向きな変化が報告されており、重大な有害事象が少ない点も注目されています。
今後は、誰にどのタイミングで投与するのが最も効果的か、どのような治療との組み合わせが有用かといった点がさらに研究され、より安全で実用的な治療法としての検証が進むことが期待されています。
POINT
- 臍帯由来MSCの臨床研究では、DAS28やHAQなどの改善が報告されています。
- TNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインの低下やTregの増加が報告されています。
- 1年後・3年後の長期評価でも、疾患活動性や炎症マーカーに前向きな変化が確認されています。
- Th17細胞、滑膜線維芽細胞、Cadherin-11などに対する基礎研究も進められています。
- 臨床応用には、さらに大規模で長期的な検証が必要です。
幹細胞治療の安全性:気になる副作用リスクは?
関節リウマチに対する幹細胞治療(MSC療法)は、国内外で行われた複数の臨床研究において、重大な有害事象が少ないことが報告されています。ただし、投与する細胞の種類、投与量、患者さんの状態によって安全性評価は異なるため、今後も長期的な検証が必要です。
臍帯由来MSCを用いた臨床研究では、重篤な有害事象が認められなかったとする報告があります。また、DMARDsとの併用療法を評価した研究でも、安全性について大きな問題は認められていません。
一方で、幹細胞治療には品質管理、感染症検査、細胞加工工程の管理、投与後の経過観察などが重要です。新しい治療法であるため、短期的な安全性だけでなく、長期的な安全性についても慎重に評価していく必要があります。
MSCが拒絶反応を起こしにくいとされる理由
MSCが臨床応用で注目される理由のひとつに、免疫原性の低さがあります。MSCは、細胞表面にあるHLA抗原(ヒト白血球抗原)の発現が比較的低いため、たとえ他人由来の細胞であっても、体内で免疫に認識されにくく、拒絶反応が起こりにくい細胞として研究されています。
この特性により、患者自身の細胞に限らず、健康なドナーから提供されたMSCであっても、使用しやすい細胞として検討されています。
また、これまでの研究では、MSCによる腫瘍形成などの重大なリスクは報告されていません。ただし、細胞治療である以上、投与後の長期的な安全性評価は今後も重要です。
もちろん、幹細胞治療には品質管理や感染症検査といった厳格な安全対策が前提となります。細胞そのものの性質だけでなく、細胞の採取、培養、保管、投与までを適切に管理することが、安全性を考えるうえで重要です。
「新しい治療だから不安」という声もありますが、これまでの知見から、関節リウマチに対するMSC療法は安全性について前向きな報告がある治療選択肢といえるでしょう。
POINT
- 関節リウマチに対するMSC治療では、臨床研究で重大な有害事象が少ないことが報告されています。
- 臍帯由来MSCとDMARDs併用療法でも、安全性について前向きな結果が示されています。
- MSCはHLA抗原の発現が比較的低く、免疫に認識されにくいため拒絶反応が起こりにくい細胞として研究されています。
- これまでの研究では腫瘍形成などの重大なリスクは報告されていませんが、長期的な安全性評価が必要です。
- 品質管理、感染症検査、細胞加工工程の管理、投与後の経過観察が重要です。
最後に:関節リウマチ治療に広がる再生医療の未来
関節リウマチに対する幹細胞治療は、これまでの治療では十分に対処しきれなかった課題に対して、新たな可能性を持つ治療戦略として研究されています。免疫の暴走を鎮めつつ損なわれた関節組織の修復環境を整えるという独自の作用メカニズムにより、単なる症状の緩和だけでなく、病態に多面的に働きかける可能性があります。
将来的には幹細胞治療がより身近で実用的な医療となり、関節リウマチで苦しむ多くの患者さんの生活の質が大きく向上することが望まれます。私たち23C JAPANは、この先も研究の進展と共に幹細胞治療が普及し、関節リウマチに対する新たな治療の選択肢として確立される日が来ることを心から願っています。
- 活動性関節リウマチ患者に対するヒト臍帯由来MSCの投与により、TNF-α・IL-6の低下、Tregの増加、DAS28やHAQの改善、安全性が報告された臨床研究
Human umbilical cord mesenchymal stem cell therapy for patients with active rheumatoid arthritis: safety and efficacy - 関節リウマチ患者に対する臍帯由来MSCとDMARDs併用療法について、1年・3年後のDAS28、HAQ、ESR、CRP、RF、抗CCP抗体、安全性を評価した第I/II相臨床研究
Efficacy and Safety of Umbilical Cord Mesenchymal Stem Cell Therapy for Rheumatoid Arthritis Patients: A Prospective Phase I/II Study - 関節リウマチ患者由来のTh17細胞に対して、同種臍帯由来MSCがIL-17、TNF-α、IL-6などの炎症性サイトカインを調整する可能性を示した基礎研究
The allogeneic umbilical cord mesenchymal stem cells regulate the function of T helper 17 cells from patients with rheumatoid arthritis in an in vitro co-culture system - ヒト臍帯由来MSCが、関節リウマチの滑膜線維芽細胞やT細胞の炎症反応を抑制し、関節炎モデルで病態を軽減したことを示した基礎研究
Therapeutic potential of human umbilical cord mesenchymal stem cells in the treatment of rheumatoid arthritis - 臍帯由来MSCが、関節リウマチの滑膜線維芽細胞におけるCadherin-11発現を抑制し、滑膜増殖や関節破壊に関わる病態へ作用する可能性を示した基礎研究
Umbilical Cord-Derived Mesenchymal Stem Cells Inhibit Cadherin-11 Expression by Fibroblast-Like Synoviocytes in Rheumatoid Arthritis - IL-1βで刺激したヒト臍帯由来MSCが、関節リウマチ滑膜線維芽細胞のアポトーシスを誘導し、関節炎モデルの炎症を軽減したことを示した基礎研究
IL-1β stimulated human umbilical cord mesenchymal stem cells ameliorate rheumatoid arthritis via inducing apoptosis of fibroblast-like synoviocytes - 3D培養した臍帯組織由来MSCのセクレトームが、関節リウマチに特徴的な炎症・免疫異常・関節炎症状に作用する可能性を示したセクレトーム研究
The Secretome Derived From 3D-Cultured Umbilical Cord Tissue MSCs Counteracts Manifestations Typifying Rheumatoid Arthritis - ウォートンジェリー由来MSCの特性、安全性、免疫調整作用を評価し、関節リウマチ動物モデルで疾患重症度の低下を示したWJ-MSC基礎研究
Characteristics of Pooled Wharton’s Jelly Mesenchymal Stromal Cells (WJ-MSCs) and their Potential Role in Rheumatoid Arthritis Treatment - 関節リウマチに対する臍帯由来MSC療法について、免疫調整作用、炎症抑制、臨床研究、安全性、今後の課題を整理したレビュー
Umbilical Cord Mesenchymal Stem Cell Therapy for Regenerative Treatment of Rheumatoid Arthritis: Opportunities and Challenges


