脊髄損傷への幹細胞治療について

脊髄損傷への幹細胞治療について

脊髄損傷(せきずいそんしょう)は、交通事故、転落、転倒、スポーツ外傷などによって脊髄という神経の束が傷つき、麻痺や感覚障害、排尿・排便障害などを引き起こすことがある深刻な状態です。

現在の医療では、急性期の手術、脊椎の固定、炎症や浮腫への対応、リハビリテーションなどによって、神経機能の悪化を防ぎ、残された機能を最大限に活用することが中心になります。

一方で、いったん大きく損傷した脊髄や神経回路を完全に元通りにする治療は、まだ確立されていません。

近年では、神経保護、抗炎症作用、軸索やミエリンを取り巻く環境づくり、神経可塑性に関わる修復環境を目指す再生医療研究が進められています。

以下では、現在の治療の課題、WJ-MSCやセクレトームを用いた再生医療研究、作用メカニズム、有効性のエビデンス、安全性について、一般の方にも分かりやすいように解説します。

脊髄損傷では脊髄内で何が起きているのか

以下では、脊髄損傷で一般的に知られている脊髄内の変化を整理します。これは特定の治療効果を示すものではなく、脊髄損傷のあとに麻痺や感覚障害などの後遺症が残る背景を理解するための病態解説です。

脊髄損傷は、交通事故、転落、転倒、スポーツ外傷、脊椎の骨折や脱臼などによって、脳と身体をつなぐ神経の通り道である脊髄が傷つく状態です。

脊髄は、脳から手足や体幹へ運動の指令を送り、身体から脳へ感覚情報を返す重要な中継路です。そのため脊髄が傷つくと、損傷した場所より下の運動、感覚、自律神経の働きに影響が出ることがあります。

脊髄を高速道路に例えるなら、脳は司令センター、脊髄は全国へつながる幹線道路、神経は情報を運ぶ車です。脊髄損傷では、この幹線道路の一部が崩れたり、渋滞したり、通行止めになったりすることで、脳からの指令や身体からの情報が届きにくくなるのです。

損傷高位によって症状の範囲が変わる

脊髄損傷では、どの高さで脊髄が傷ついたかが非常に重要です。これを損傷高位と呼びます。

首の部分にある頚髄が傷つくと、腕、手、体幹、脚に影響が出ることがあり、四肢麻痺につながる場合があります。胸の部分にある胸髄が傷つくと、主に体幹や下肢に影響し、対麻痺が起こることがあります。

腰髄や仙髄に近い部分が障害されると、脚の動きや感覚、排尿・排便、性機能などに影響が出ることがあります。このように、脊髄損傷の症状は「どこが傷ついたか」によって大きく変わります。

完全損傷と不完全損傷で残る機能が異なる

脊髄損傷には、完全損傷と不完全損傷があります。完全損傷とは、損傷部位より下の運動機能や感覚機能が大きく失われた状態です。

一方、不完全損傷では、脳と身体をつなぐ神経の通り道が一部残っていることがあります。そのため、損傷部位より下にも感覚が少し残る、足をわずかに動かせる、左右で症状に差がある、といった状態が見られることがあります。

不完全損傷では、残された神経回路をどのように活用できるかが、リハビリテーションや回復可能性を考えるうえで重要になります。

衝撃の瞬間に起こる一次損傷

脊髄損傷では、まず外からの力が加わった瞬間に一次損傷が起こります。一次損傷とは、骨折、脱臼、圧迫、引き伸ばし、切断などによって、脊髄組織、血管、神経線維が直接傷つくことです。

たとえば、脊椎が骨折して骨片が脊髄を圧迫したり、強い外力で脊髄が引き伸ばされたりすると、神経細胞や軸索、血管が物理的に損傷します。

一次損傷は、事故や外傷が起きた瞬間に発生します。そのため急性期には、脊髄への圧迫を減らすこと、脊椎を安定させること、血流や呼吸循環を保つことが重要になります。

二次損傷が時間差で広がることがある

脊髄損傷では、最初の衝撃で起こる一次損傷だけでなく、その後に続く二次損傷も重要です。二次損傷には、炎症、浮腫、虚血、酸化ストレス、興奮毒性、ミトコンドリア障害、細胞死などが関わります。

二次損傷は、受傷直後から数時間、数日、場合によってはさらに長い期間にわたって進むことがあります。最初の損傷範囲が限られていても、炎症や浮腫が広がることで、周囲の神経組織にも負担がかかる場合があります。

これは、最初に道路が崩れたあと、周囲で火災や停電、交通渋滞が広がっていくような状態です。脊髄損傷では、最初のダメージだけでなく、その後に続く反応を抑えることも重要な研究テーマになっています。

血液脊髄関門の乱れと脊髄浮腫

脊髄には、血液中の不要な物質や炎症性物質が神経組織へ入りすぎないようにする血液脊髄関門があります。脊髄損傷後には、この血液脊髄関門が乱れ、炎症細胞や水分が脊髄内へ入りやすくなることがあります。

その結果、脊髄浮腫と呼ばれる腫れが起こり、限られた脊柱管の中で脊髄がさらに圧迫されることがあります。浮腫が強いと、神経細胞や軸索への血流や酸素供給にも悪影響が出る可能性があります。

血液脊髄関門の乱れ、炎症細胞の流入、浮腫は、二次損傷を進める要因として研究されています。

軸索、ミエリン、白質が傷つく

脊髄の中には、脳と身体をつなぐ多くの神経線維が通っています。この神経線維の中心となる構造を軸索と呼びます。

軸索は、神経信号を遠くまで運ぶケーブルのようなものです。脊髄損傷では、この軸索が切れたり、引き伸ばされたり、圧迫されたりすることで、脳から筋肉への運動指令や、身体から脳への感覚情報が伝わりにくくなります。

また、軸索の周囲にはミエリンという絶縁材のような構造があります。ミエリンが傷つく脱髄が起こると、神経信号の伝達速度が落ちたり、信号がうまく伝わらなくなったりすることがあります。

灰白質と白質の障害が機能低下につながる

脊髄には、神経細胞の集まりである灰白質と、神経線維が多く通る白質があります。灰白質は情報処理の中継所、白質は脳と身体をつなぐ通信網のような役割を持っています。

灰白質が障害されると、そのレベルでの反射や運動、感覚処理に影響が出ることがあります。白質が障害されると、脳から下へ向かう運動指令や、身体から上へ向かう感覚情報が通りにくくなります。

そのため、脊髄損傷では、麻痺、感覚障害、しびれ、痛み、痙縮、排尿・排便障害、自律神経障害など、複数の症状が組み合わさって現れることがあります。

オリゴデンドロサイト障害と脱髄

ミエリンを作る細胞をオリゴデンドロサイトと呼びます。脊髄損傷後には、炎症、酸化ストレス、虚血、興奮毒性などによって、オリゴデンドロサイトが障害されることがあります。

オリゴデンドロサイトが傷つくと、軸索を包むミエリンが失われ、神経信号が伝わりにくくなります。これは、電線の絶縁カバーがはがれ、電気信号が漏れやすくなるような状態です。

脱髄が進むと、残っている軸索が完全には切れていなくても、神経信号の伝達が不安定になり、運動や感覚に影響が出ることがあります。

神経炎症ではミクログリアやアストロサイトが活性化する

脊髄損傷後には、ミクログリアやアストロサイトと呼ばれるグリア細胞が活性化します。ミクログリアは、損傷や異常を見つけて反応する免疫細胞のような存在です。アストロサイトは、神経細胞の周囲環境や血液脊髄関門を支える細胞です。

これらの細胞は、損傷部位を片付けたり、修復の準備をしたりするために必要な働きを持っています。一方で、炎症が強すぎたり長引いたりすると、TNF-α、IL-1β、IL-6などの炎症性サイトカインが増え、周囲の神経細胞や軸索に負担をかけることがあります。

つまり、脊髄損傷後の神経炎症は、修復に必要な反応である一方、過剰になると二次損傷や慢性的な神経機能障害に関わる可能性がある複雑な反応です。

グリア瘢痕と空洞形成が軸索再生を妨げることがある

脊髄損傷後、損傷部位の周囲にはアストロサイトなどが集まり、グリア瘢痕と呼ばれる組織が形成されることがあります。

グリア瘢痕は、損傷が広がらないように区切る防壁のような役割を持ちます。しかし一方で、軸索が再び伸びることを妨げる環境にもなり得ます。

また、損傷部位には空洞形成が起こることもあります。空洞ができると、神経線維が通る足場が失われ、脳と身体をつなぐ情報の通り道が再び作られにくくなります。これが、慢性期の脊髄損傷で回復が難しくなる一因です。

麻痺、感覚障害、排尿排便障害につながる

脊髄損傷では、損傷した場所より下の神経信号が伝わりにくくなるため、運動麻痺や感覚障害が起こります。頚髄損傷では四肢麻痺、胸髄や腰髄の損傷では対麻痺が起こることがあります。

また、感覚が鈍くなる、しびれる、痛みが続く、触られている感覚が分かりにくいといった症状が出ることもあります。神経障害性疼痛は、脊髄損傷後の生活の質に大きく影響する症状のひとつです。

さらに、排尿障害、排便障害、性機能障害、発汗や血圧調整の乱れなど、自律神経障害が起こることもあります。脊髄損傷は、手足の動きだけでなく、全身の生活機能に関わる病態です。

回復には神経可塑性とリハビリテーションが重要

脊髄損傷後の回復には、残された神経回路を活用する神経可塑性が重要です。神経可塑性とは、訓練や経験によって神経回路が変化し、新しい情報の通り道を作ろうとする性質です。

リハビリテーションでは、残された運動機能や感覚機能を引き出し、日常生活動作を再学習することを目指します。筋力トレーニング、歩行訓練、作業療法、排尿排便管理、痙縮管理、疼痛管理などが組み合わされます。

ただし、回復の程度は、完全損傷か不完全損傷か、損傷高位、損傷範囲、年齢、合併症、リハビリの量や質によって異なります。そのため、脊髄損傷では長期的な医学的管理と生活支援が重要になります。

なぜWJ-MSCやセクレトームが注目されるのか

脊髄損傷では、軸索損傷、脱髄、神経炎症、血液脊髄関門の乱れ、脊髄浮腫、酸化ストレス、グリア瘢痕、空洞形成など、複数の病態が関わります。そのため、ひとつの仕組みだけを抑える治療では十分に対応しきれない場合があります。

そこで注目されているのが、間葉系幹細胞(MSC)や、MSCが分泌する成長因子・サイトカインなどを含むセクレトームです。MSCは、抗炎症作用、免疫調整作用、神経保護作用、血管新生のサポート、軸索やミエリンを取り巻く環境づくり、神経可塑性に関わる修復環境への作用が研究されています。

特にウォートンジェリー由来間葉系幹細胞(WJ-MSC)は、臍帯由来の若い細胞として、セクレトームを介したパラクリン作用が注目されています。WJ-MSC療法は、切断された脊髄や失われた神経回路を直接元通りにする治療として確立されているわけではありませんが、神経保護、抗炎症作用、血管環境、脊髄内環境の調整に働きかける可能性が研究されています。

POINT

  • 脊髄損傷では、損傷高位によって麻痺や感覚障害の範囲が変わります。
  • 完全損傷と不完全損傷では、残される運動機能や感覚機能が異なります。
  • 一次損傷のあとに、炎症、浮腫、虚血、酸化ストレス、興奮毒性などの二次損傷が進むことがあります。
  • 軸索、ミエリン、白質、灰白質が障害されると、運動麻痺、感覚障害、排尿排便障害、自律神経障害などにつながります。
  • グリア瘢痕や空洞形成は、慢性期の軸索再生や神経回路再建を妨げる要因として研究されています。
  • WJ-MSCやセクレトームは、神経保護、抗炎症作用、血管環境、脊髄内環境の調整を通じて、脊髄損傷に関連する病態へ働きかける可能性が研究されています。

脊髄損傷と現在の治療の課題

脊髄は、脳からの指令を身体に伝える「神経の幹線道路」に例えられます。

この脊髄が傷つくと、その下位の神経回路への信号が途絶え、損傷部位より下の箇所で手足が動かしにくい、感覚が分かりにくい、排尿・排便がうまくできないといった症状につながることがあります。

現在の標準治療では、事故直後の急性期に外科手術で骨折した骨や飛び出した椎間板による脊髄の圧迫を取り除き、脊椎を固定することがあります。また、呼吸循環管理、血圧管理、合併症予防なども重要です。

その後はリハビリテーションによって、残存する神経機能や筋力、日常生活動作を最大限に活用できるよう訓練することが中心になります。

しかし、一度大きく損傷した脊髄の神経回路を完全に元通りにする治療は確立されていません。脊髄損傷の後遺症に対しては、長期的なリハビリテーション、合併症管理、生活支援が重要になります。

このような背景から、脊髄損傷後の炎症、軸索やミエリンを取り巻く環境、神経可塑性、脊髄内の修復環境に働きかける新しい治療戦略が研究されています。

脊髄損傷に対する幹細胞治療と再生医療の新たな可能性

脊髄損傷への再生医療として、幹細胞やセクレトームを用いた治療が世界中で研究されています。

脊髄損傷に対する再生医療では、損傷した脊髄を直接元通りに作り直すというより、損傷後の炎症、血管環境、軸索やミエリンを取り巻く環境、神経保護、神経可塑性に関わる修復環境へ働きかけることが研究されています。

幹細胞にはいくつか種類があります。たとえば、脂肪由来MSC、骨髄由来MSC、iPS細胞由来神経前駆細胞、WJ-MSC、臍帯由来MSCなどが研究されています。

ただし、細胞の種類によって作用機序や安全性評価は異なります。本記事では、23C JAPANが扱うWJ-MSCとセクレトームに関連する研究を中心に整理します。

なかでも臍帯のウォートンジェリー由来間葉系幹細胞(WJ-MSC)は、増殖能、分泌能力、免疫調整作用、セクレトームを介したパラクリン作用の観点から研究されている細胞のひとつです。

これら幹細胞を用いた研究では、損傷後の炎症、血管環境、軸索やミエリンを取り巻く環境、神経可塑性に働きかける可能性が検討されています。ただし、切断された脊髄や失われた神経回路を元通りにする治療として確立されているわけではありません。

脊髄損傷に対する再生医療は、リハビリテーションや標準治療を置き換えるものではなく、将来的な補完的アプローチとして研究されている段階です。

ウォートンジェリー幹細胞について
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脊髄損傷に対する幹細胞治療の作用メカニズム

なぜ幹細胞やセクレトームが脊髄損傷に対して研究されているのでしょうか。現在重視されているのは、幹細胞そのものが神経細胞へ直接置き換わる作用よりも、MSCが分泌する成長因子やサイトカインなどを含むセクレトームを介したパラクリン作用です。

損傷環境へ働きかける可能性

MSCは、損傷組織から出る炎症性シグナルやケモカインに反応して、損傷環境へ影響を受ける可能性が研究されています。ただし、投与した細胞が必ず損傷部位へ十分に到達し、そこで直接修復することが確立されているわけではありません。

現在の研究では、MSCやセクレトームが、損傷後の炎症、血管環境、軸索やミエリンを取り巻く環境、神経保護に関わる可能性が検討されています。

炎症を調整する可能性

脊髄損傷後は過剰な炎症反応が起こり、二次損傷に関わることがあります。MSCやセクレトームは、このような神経炎症環境へ働きかける可能性が研究されています。

具体的には、ミクログリアやアストロサイト、炎症性サイトカイン、免疫細胞の反応に関わる環境を調整する可能性が検討されています。

ただし、炎症を完全に抑えたり、脊髄機能を確実に回復させたりする治療として確立されているわけではありません。

成長因子やセクレトームを介した作用

MSCは、成長因子やサイトカインなどの分泌因子を放出します。これらは総称してセクレトームとも呼ばれ、神経細胞や軸索、ミエリン、血管環境を支える研究対象になっています。

MSCやセクレトームに含まれる成長因子は、神経保護、軸索を取り巻く環境、血管環境、組織修復環境に関わる可能性が研究されています。

たとえば、BDNF、NGF、GDNF、VEGFなどの因子は、神経細胞の生存、血管環境、組織修復環境に関わる物質として研究されています。

グリア瘢痕や血管環境への作用

脊髄損傷後には、グリア瘢痕や空洞形成が軸索再生や神経回路再建を妨げる要因になることがあります。

MSCやセクレトームは、グリア瘢痕、反応性アストロサイト、炎症環境、軸索を取り巻く環境に作用する可能性が前臨床研究で検討されています。

また、MSCやセクレトームは、損傷部位の血管環境や炎症環境に働きかける可能性が検討されています。ただし、脊髄内で神経が再び伸びて機能回復することを保証するものではありません。

細胞置換よりも環境調整作用が重視されている

幹細胞自体が神経系細胞や支持細胞に分化する可能性を示した基礎研究はありますが、ヒトの脊髄損傷で失われた神経細胞や神経回路を直接補う治療として確立されているわけではありません。

現在重視されているのは、MSCやセクレトームが神経保護、抗炎症作用、血管環境、軸索やミエリンを取り巻く環境、神経可塑性に関わる修復環境へ働きかける可能性です。

つまり、幹細胞治療は神経回路を直接つなぎ直す治療として確立されているわけではなく、損傷後の脊髄内環境を整える可能性が研究されているアプローチです。

脊髄損傷に対するWJ-MSCやセクレトームの研究は、神経保護、抗炎症作用、軸索・ミエリン環境、血管環境、神経可塑性を支える可能性を検討する研究領域として位置づけられます。

POINT

  • MSCやセクレトームは、脊髄損傷後の炎症や修復環境に働きかける可能性が研究されています。
  • 神経保護、軸索・ミエリン環境、血管環境への作用が検討されています。
  • グリア瘢痕や炎症環境への作用は主に前臨床研究で検討されています。
  • 細胞置換よりも、セクレトームを介した環境調整作用が重要視されています。
  • 脊髄損傷を確実に回復させる治療として確立されているわけではありません。

脊髄損傷に対する幹細胞治療の有効性のエビデンス

幹細胞治療によって脊髄損傷後の機能にどのような変化が見られるのかについては、世界中で臨床研究や前臨床研究が進められています。

ただし、現時点では研究ごとに対象者数、損傷高位、完全損傷・不完全損傷、投与方法、リハビリ併用の条件が異なります。そのため、すべての患者さんに同じ効果が得られると断定することはできません。

WJ-MSCの慢性完全脊髄損傷に対する臨床研究

慢性完全脊髄損傷患者に対するWJ-MSCの髄腔内投与研究では、安全性、運動・感覚機能、自律神経機能などが評価されています。

一部の評価項目で前向きな変化が報告されていますが、対象者数や評価条件には限りがあり、WJ-MSC療法が標準治療として確立されたことを意味するものではありません。

また、慢性完全脊髄損傷に対するWJ-MSCの複数経路投与の第I相研究では、安全性、実施可能性、神経機能、QOLなどが評価されています。ただし、対照群がない研究では、リハビリテーションや併用治療の影響を完全に切り分けることはできません。

臍帯由来MSCの臨床研究

脊髄損傷に対する臍帯由来MSCの反復くも膜下投与や髄腔内投与の臨床研究では、安全性、神経機能、生活の質、損傷高位や重症度による反応などが評価されています。

これらの研究では、感覚機能、運動機能、自律神経機能、QOLなどに関する前向きな変化が報告されています。

一方で、研究規模、投与方法、損傷高位、完全損傷・不完全損傷の違い、リハビリ併用の影響などにより、結果の解釈には注意が必要です。脊髄損傷に対するWJ-MSC療法や臍帯由来MSC療法は、標準治療として確立されているわけではありません。

脂肪由来MSCやiPS細胞研究は参考情報として扱う

脊髄損傷に対する再生医療では、脂肪由来MSCやiPS細胞由来神経前駆細胞なども研究されています。

たとえば、脂肪由来MSCを用いた臨床試験や、iPS細胞由来神経前駆細胞を用いた臨床研究では、神経機能や安全性が評価されています。

ただし、これらはWJ-MSCやセクレトームとは異なる細胞ソースです。そのため、本記事では参考情報にとどめ、WJ-MSCやセクレトームの有効性として扱うことはできません。

前臨床研究とセクレトーム研究

動物モデルでは、WJ-MSCや臍帯由来MSC、WJ-MSC由来conditioned mediumを用いて、運動機能、神経炎症、軸索スプラウティング、反応性アストロサイト、グリア瘢痕、血管環境などへの作用が検討されています。

MSCセクレトームに関する研究では、脊髄損傷後の神経保護、炎症調整、軸索・ミエリン環境、組織修復環境への作用が整理されています。

ただし、前臨床研究で得られた結果が、そのままヒトの脊髄損傷に当てはまるとは限りません。臨床効果を判断するには、ヒトを対象とした大規模で長期的な検証が必要です。

※AISグレード
国際的に用いられる脊髄損傷の重症度評価基準(American Spinal Injury Association Impairment Scale)。
Aが完全麻痺、B〜Dが不完全麻痺、Eが正常。

これらの研究では、感覚機能、運動機能、自律神経機能、QOLなどに関する前向きな変化が報告されています。

一方で、研究条件や対象者の状態によって結果は異なり、すべての患者さんで同じような変化が得られるわけではありません。

脊髄損傷に対するWJ-MSC療法やセクレトーム研究は、現時点では臨床研究や前臨床研究が進められている段階であり、標準治療として確立されているわけではありません。

脊髄損傷に対する幹細胞治療の安全性と副作用

脊髄損傷に対するWJ-MSCや臍帯由来MSCの研究では、安全性や忍容性も評価されています。

一部の研究では、重大な有害事象が少ないことが報告されていますが、対象者数、投与経路、投与回数、追跡期間には限りがあります。

また、細胞治療では、感染、疼痛、発熱、頭痛、血圧変動、神経症状、免疫反応、長期的な安全性などを慎重に評価する必要があります。

治療を検討する際には、細胞の品質管理、感染症検査、投与方法、投与後の経過観察を含めて慎重に判断することが重要です。

投与時に起こり得る副反応

幹細胞治療後に報告される可能性のある副反応には、頭痛、発熱、一時的な血圧変動、注射部位の痛みなどがあります。

髄腔内投与やくも膜下投与では、穿刺に伴う頭痛、感染リスク、神経症状などにも注意が必要です。

多くは一過性とされることがありますが、症状が出た場合には医師の管理のもとで適切に対応する必要があります。

免疫反応や長期安全性への注意

他人由来の幹細胞、たとえば臍帯由来WJ-MSCを使う場合、免疫反応や抗体形成の可能性も含めて慎重に評価する必要があります。

MSCは免疫に認識されにくい性質があるとされますが、投与回数、投与経路、患者さんの状態によって安全性評価は異なります。

また、細胞治療である以上、短期的な副反応だけでなく、長期的な安全性評価も重要です。

細胞品質と管理体制が重要

他家由来の臍帯組織やWJ-MSCを用いる場合、ドナーのスクリーニング、感染症検査、細胞培養、品質検査、保管・輸送管理が重要です。

治療を行う施設では、細胞の由来、製造工程、培養環境、検査項目、投与方法、投与後のフォロー体制について説明できることが求められます。

安全性を考えるうえでは、細胞そのものの性質だけでなく、治療全体の管理体制を確認することが大切です。

POINT

  • WJ-MSCや臍帯由来MSCの研究では、安全性や忍容性も評価されています。
  • 重大な有害事象が少ないと報告される研究もありますが、研究規模や追跡期間には限りがあります。
  • 投与後の頭痛、発熱、血圧変動、注射部位の痛みなどには注意が必要です。
  • 細胞品質、感染症検査、投与方法、長期フォロー体制が重要です。
  • 長期的な安全性と有効性については、今後さらに検証が必要です。

おわりに:脊髄損傷に対する再生医療研究のこれから

脊髄損傷では、一次損傷と二次損傷、軸索損傷、脱髄、神経炎症、血液脊髄関門の乱れ、グリア瘢痕、空洞形成などが複雑に関わります。

WJ-MSCや臍帯由来MSC、セクレトームを用いた研究では、神経保護、抗炎症作用、軸索やミエリンを取り巻く環境、血管環境、神経可塑性に関わる修復環境への作用が検討されています。

一方で、WJ-MSC療法は脊髄損傷を治癒させたり、切断された脊髄や失われた神経回路を元通りにしたりする治療として確立されているわけではありません。現時点では、臨床研究や前臨床研究が進められている段階です。

WJ-MSC療法やセクレトーム研究は、脊髄損傷に対する新しい再生医療の研究領域として、今後の発展が期待されています。

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