「肝硬変はもう治らないの?」と告げられ、不安を感じている患者さんやご家族は少なくありません。
お腹に水が溜まって張れる腹水、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、意識がぼんやりする肝性脳症など、肝硬変に伴う症状や合併症は日常生活に大きな影響を与えます。
現在の医療では、原因治療や合併症管理によって進行を抑えることが重要ですが、進行した肝硬変を元通りに戻すことは簡単ではありません。
こうした中、炎症や線維化、肝修復環境に働きかける新たなアプローチとして、幹細胞治療を用いた再生医療の研究が進められています。
肝硬変では肝臓の中で何が起きているのか
肝硬変は、肝臓が単に「硬くなる」だけの病気ではありません。慢性的な炎症や肝細胞の障害が長く続くことで、肝臓の中に線維組織が増え、肝臓本来の構造や血流、代謝機能が少しずつ乱れていく病態です。
肝臓は、栄養の代謝、解毒、胆汁の生成、アルブミンや血液凝固因子の産生など、生命維持に欠かせない働きを担っています。その肝臓の中で線維化が進むと、肝細胞が十分に働けなくなり、全身にさまざまな影響が出るようになります。
肝臓を「大きな化学工場」に例えるなら、肝細胞は工場で働く職人、血管は材料を運ぶ道路、肝臓の組織構造は工場の設備です。肝硬変では、工場内に硬い仕切りや傷跡が増え、材料の流れも作業効率も悪くなっていくイメージです。
慢性的な肝障害が線維化の出発点になる
肝硬変の背景には、ウイルス性肝炎、アルコール性肝障害、脂肪肝炎、自己免疫性肝疾患など、長く続く肝障害があります。原因は異なっても、肝細胞が傷つき、炎症と修復が繰り返される点は共通しています。
肝細胞が障害されると、体は傷ついた部分を修復しようとします。この修復反応そのものは本来必要な働きですが、炎症が長く続くと、修復のための反応が過剰になり、線維組織が少しずつ蓄積していきます。
一度だけの傷であれば修復されても、何度も同じ場所に傷ができると、皮膚に厚い傷跡が残ることがあります。肝臓でも同じように、慢性的な炎症が続くことで、内部に線維性の“傷跡”が増えていきます。
肝星細胞が活性化し、コラーゲンを作りすぎる
肝線維化で重要な役割を持つのが、肝星細胞です。肝星細胞は、通常はビタミンAを蓄えるなど比較的静かな状態で存在していますが、肝障害や炎症が続くと活性化します。
活性化した肝星細胞は、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを多く作るようになります。細胞外マトリックスは、組織の足場として必要な成分ですが、過剰に増えると肝臓の柔らかさや構造を損なう原因になります。
つまり肝硬変では、修復のために働くはずの仕組みが過剰になり、肝臓の中に硬い線維性の足場が増えすぎてしまうのです。
TGF-βや炎症性サイトカインが線維化を進める
肝臓の炎症環境では、TGF-β、TNF-α、IL-1β、IL-6などのサイトカインが関わることがあります。これらは、細胞同士が情報を伝える“連絡信号”のような物質です。
特にTGF-βは、肝星細胞の活性化やコラーゲン産生に関わる重要な因子として知られています。炎症性サイトカインが増えた状態が続くと、肝細胞障害、免疫反応、線維化が連鎖しやすくなります。
これは、工場内の警報が鳴り続け、修理部隊が必要以上に壁や仕切りを作り続けるような状態です。修復のつもりで作られた線維組織が増えすぎると、かえって肝臓全体の働きを妨げることになります。
線維化が進むと肝臓の構造と血流が乱れる
線維化が進むと、肝臓の中に線維性隔壁と呼ばれる硬い組織が増え、肝臓の構造が本来の形から変化していきます。さらに、再生結節と呼ばれる肝細胞のかたまりが形成され、肝臓全体がでこぼこした構造になります。
この構造変化によって、肝臓の中を流れる血液の通り道が圧迫されたり、曲がったり、流れにくくなったりします。その結果、肝臓へ流れ込む門脈という血管の圧が高くなり、門脈圧亢進へつながります。
門脈は、腸から吸収された栄養を肝臓へ運ぶ大切な血管です。この血液の通り道が詰まり気味になると、肝臓だけでなく、消化管や脾臓、腹腔内にも影響が広がります。
門脈圧亢進が腹水や食道静脈瘤につながる
門脈圧亢進が起こると、血液は肝臓を通りにくくなり、別の通り道へ逃げようとします。その結果、食道や胃の周囲に静脈瘤ができることがあります。食道静脈瘤や胃静脈瘤は、破裂すると大量出血につながる可能性があるため注意が必要です。
また、門脈圧亢進と肝機能低下が重なると、お腹に水がたまる腹水が起こりやすくなります。腹水は、アルブミンの低下、血管内圧の変化、腎臓での水分・塩分調整の乱れなどが関係して起こります。
肝硬変では、肝臓の中だけでなく、血液の流れ、水分バランス、腎機能、消化管出血リスクなど、全身に影響が広がっていくのです。
肝機能が低下すると黄疸や肝性脳症が起こる
肝硬変が進むと、肝細胞の働きが低下し、ビリルビン、アルブミン、血液凝固因子、アンモニアなどの処理や産生に影響が出ます。
ビリルビンを十分に処理できなくなると、皮膚や白目が黄色くなる黄疸が現れることがあります。アルブミンが低下すると、むくみや腹水が起こりやすくなります。血液凝固因子が低下すると、出血しやすくなることもあります。
さらに、アンモニアなどの有害物質を十分に処理できなくなると、意識のぼんやり、昼夜逆転、手の震え、重症では昏睡に至る肝性脳症が起こることがあります。これは、肝臓の解毒機能が低下し、脳に影響が及ぶ状態です。
Child-PughやMELDで肝機能の重症度を評価する
肝硬変の重症度を評価するためには、Child-Pugh分類やMELDスコアなどが用いられます。これらは、血液検査や症状をもとに、肝臓の予備力や予後を評価するための指標です。
Child-Pugh分類では、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間、腹水、肝性脳症などが評価されます。MELDスコアでは、ビリルビン、INR、クレアチニンなどが用いられ、肝機能や腎機能を含めて重症度を見ます。
これらの指標は、治療方針の検討や肝移植の必要性を考えるうえでも重要です。肝硬変では、単に肝臓が硬いかどうかだけでなく、どれだけ肝臓の働きが残っているかを評価することが大切です。
なぜWJ-MSCやセクレトームが注目されるのか
肝硬変では、慢性炎症、肝細胞障害、肝星細胞の活性化、線維化、門脈圧亢進、肝機能低下など、複数の問題が同時に進行します。そのため、ひとつの仕組みだけを抑える治療では十分に対応しきれない場合があります。
そこで注目されているのが、間葉系幹細胞(MSC)や、MSCが分泌する成長因子・サイトカインなどを含むセクレトームです。MSCは、抗炎症作用、免疫調整作用、肝星細胞の活性化抑制、線維化環境の調整、肝細胞を支える環境づくりに関わる可能性が研究されています。
特にウォートンジェリー由来間葉系幹細胞(WJ-MSC)は、臍帯由来の若い細胞として、セクレトームを介したパラクリン作用が注目されています。WJ-MSC療法は、硬くなった肝臓を直接元通りに戻す治療として確立されているわけではありませんが、炎症や線維化、肝修復環境に多面的に働きかける可能性が研究されています。
POINT
- 肝硬変は、慢性的な肝障害によって線維化が進み、肝臓の構造や血流、機能が乱れる病態です。
- 肝星細胞が活性化すると、コラーゲンなどの細胞外マトリックスが増え、肝線維化が進みやすくなります。
- TGF-βや炎症性サイトカインは、肝星細胞の活性化や線維化環境に関わる重要な因子です。
- 線維化が進むと門脈圧亢進が起こり、腹水、食道静脈瘤、脾腫などにつながることがあります。
- 肝機能が低下すると、黄疸、低アルブミン、凝固異常、肝性脳症などが起こる可能性があります。
- WJ-MSCやセクレトームは、抗炎症作用、免疫調整作用、線維化環境の調整、肝修復環境の改善を通じて、肝硬変に関連する病態へ働きかける可能性が研究されています。
肝硬変ってどんな病気?現行治療の限界は?
肝硬変とは、慢性的な肝臓のダメージにより、柔らかかった肝臓の組織が硬い瘢痕組織(線維組織)に置き換わり、肝臓全体の構造と機能に影響が出た状態を指します。
イメージとしては、ふっくらとした肝臓が長年の炎症によって傷つき、内部に硬い傷跡が増えていく状態です。
肝硬変の原因と広がる影響
日本には多くの肝硬変患者がいるとされ、その主な原因には次のようなものがあります。
- ウイルス性肝炎(B型・C型): 長期間の肝炎により肝臓が徐々に傷つきます。
- アルコール性肝障害: 長年の飲酒が肝細胞を障害します。
- 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH): 生活習慣病と関連する肝硬変原因として注目されています。
どの原因であれ、慢性炎症が続くことで正常な肝細胞が障害され、線維化が進行し、やがて肝硬変に至ることがあります。
進行すると命に関わる合併症も
肝硬変が進行すると、次のような重篤な合併症を引き起こすことがあります。
- 腹水: お腹に水が溜まり、腹部膨満感や呼吸のしづらさにつながることがあります。
- 黄疸: 皮膚や白目が黄色くなり、全身倦怠感やかゆみを伴うことがあります。
- 肝性脳症: 解毒機能の低下により、意識障害や昏睡につながることがあります。
これらの合併症により、患者さんの日常生活は大きく制限されることがあります。そのため、肝硬変では原因治療だけでなく、合併症の早期発見と継続的な管理が重要です。
現行治療の現実:対症療法中心
現在の肝硬変治療では、原因治療と合併症管理が中心になります。
- 原因治療: ウイルス性肝炎に対する抗ウイルス治療、禁酒、生活習慣の改善など。
- 合併症対策: 腹水に対する利尿薬、肝性脳症に対する薬物療法、食道静脈瘤への内視鏡治療など。
ただし、一度進んだ線維化や肝臓構造の変化を完全に元通りに戻すことは簡単ではありません。肝移植は重要な治療選択肢ですが、
- 慢性的なドナー不足
- 大規模な外科手術のリスク
- 長期的な免疫抑制療法の負担
などの課題があり、すべての患者さんに適応できるわけではありません。
求められる肝修復環境への新しいアプローチ
このように、肝硬変では原因治療や合併症管理だけでなく、炎症や線維化、肝修復環境に働きかける新しい治療戦略が求められています。
その一つとして、近年では間葉系幹細胞(MSC)やセクレトームを用いた再生医療研究が進められています。
POINT
- 肝硬変は線維化により肝臓の構造や機能が乱れた状態です。
- 腹水、黄疸、肝性脳症など重篤な合併症を引き起こすことがあります。
- 現在の治療は原因治療と合併症管理が中心です。
- 肝移植は重要な選択肢ですが、ドナー不足や手術リスクなどの課題があります。
- 炎症や線維化、肝修復環境に働きかける新たな治療戦略が研究されています。
肝硬変に再生医療は有効? 幹細胞治療が注目される理由
肝硬変に対して、炎症や線維化、肝修復環境に働きかける新たなアプローチとして、近年注目されているのが幹細胞治療です。
幹細胞とは、自分自身を増やす力や、複数の細胞系統へ分化する力を持つ細胞です。間葉系幹細胞(MSC)は、成長因子やサイトカインなどを分泌し、周囲の組織環境に働きかける細胞として研究されています。
幹細胞治療とは?
幹細胞治療とは、患者さん自身またはドナーから得られた細胞を用いて、傷ついた組織の修復環境に働きかける治療法です。肝硬変では、肝細胞そのものに直接置き換わることだけでなく、炎症や線維化環境を調整し、残っている肝細胞を支える働きが研究されています。
再生医療の選択肢はいくつかある
肝臓再生の研究では、iPS細胞、骨髄由来細胞、末梢血由来細胞なども検討されていますが、本記事では、臍帯由来MSC、とくにウォートンジェリー由来MSCとセクレトームを中心に解説します。
間葉系幹細胞(MSC)とは?
MSC(Mesenchymal Stem Cell)は、主に骨髄、脂肪組織、そして出生時の臍帯(へその緒)などに存在する幹細胞です。肝臓領域では、次のような特徴が研究されています。
- 多分化能: 骨・軟骨・脂肪など複数の細胞系統へ分化できる性質があります。
- 分泌能力: 成長因子やサイトカインなどを分泌し、組織環境に働きかける可能性があります。
- 免疫調整作用: 炎症や免疫バランスに関わる細胞として研究されています。
これらの性質から、MSCは肝臓の炎症や線維化、組織修復環境に働きかける細胞として研究されています。
中でも注目の「臍帯由来MSC」
MSCの中でも、特に臍帯(へその緒)から採取されるウォートンジェリー由来MSC(WJ-MSC)は、肝硬変や肝線維化の研究領域で注目されている細胞のひとつです。
- 臍帯由来の若い細胞: 出産時に得られる臍帯由来の細胞として、増殖能や分泌能力が研究されています。
- 免疫に認識されにくい性質: 他人由来でも使用しやすい細胞として研究されています。
- セクレトームを介した作用: 成長因子やサイトカインなどを含む分泌因子が、炎症や線維化環境に働きかける可能性があります。
また、採取にあたり赤ちゃんや母体に負担がかからず、倫理的な観点でも受け入れやすい細胞ソースとして研究されています。
当院では、臍帯由来のWJ-MSCを用い、肝硬変に関連する炎症や線維化、肝修復環境への働きかけを目指す再生医療に取り組んでいます。
POINT
- 幹細胞治療は、肝硬変に関連する炎症や線維化環境への作用が研究されています。
- 間葉系幹細胞(MSC)は、免疫調整作用や分泌能力を持つ細胞として研究されています。
- WJ-MSCは臍帯由来の若い細胞として、増殖能、分泌能力、免疫調整作用が研究されています。
- WJ-MSCやセクレトームは、肝修復環境に働きかける可能性が注目されています。
幹細胞治療は肝硬変の肝臓にどう効く?
幹細胞を体内に投与すると、どのようにして肝硬変に関連する炎症や線維化環境に働きかけるのでしょうか。ポイントは、セクレトームを介したパラクリン作用、免疫調整作用、線維化環境への作用です。
肝細胞を支える環境を整える
MSCは、肝細胞そのものに直接置き換わるというより、分泌因子を介して肝細胞が働きやすい環境を整える可能性が研究されています。
MSCやWJ-MSCは、成長因子やサイトカインなどを含むセクレトームを分泌し、炎症の調整、細胞死の抑制、肝細胞保護、肝修復環境の改善に関わる可能性があります。
このため、肝硬変に対する幹細胞治療は「失われた肝細胞をそのまま補充する治療」というより、肝臓内の炎症・線維化環境を整え、残っている肝細胞を支える治療として研究されています。
修復因子を分泌して肝臓を支える(パラクライン効果)
幹細胞は、成長因子やサイトカインなどを含むセクレトームを分泌し、肝修復環境を支える可能性があります。
MSCは、抗炎症作用を持つサイトカインや、組織修復に関わる成長因子などを分泌します。これにより、
- 慢性炎症の調整
- 線維化環境への作用
- 修復型マクロファージなどを介した組織修復環境への関与
といった働きが研究されています。
免疫を調整して炎症を鎮める(免疫調節効果)
過剰な免疫反応を調整し、肝臓への追加ダメージを抑える可能性があります。
MSCは、T細胞やB細胞、マクロファージなどの免疫細胞に働きかけ、慢性炎症を調整する可能性が研究されています。これにより、肝細胞障害と線維化が繰り返される環境へ多面的に働きかけることが期待されています。
以上のように、幹細胞治療は「肝細胞を支える環境を整え、炎症を調整し、線維化環境へ働きかける」アプローチとして研究されています。
POINT
- MSCは、肝細胞そのものに直接置き換わる治療として確立されているわけではありません。
- セクレトームを介して、肝細胞が働きやすい環境を整える可能性があります。
- 慢性炎症や線維化環境に働きかける作用が研究されています。
- 免疫調整作用により、肝臓への追加ダメージを抑える可能性が検討されています。
- 肝硬変に対する新しい再生医療の研究領域として注目されています。
幹細胞治療はどれくらい効果がある?臨床研究が示すエビデンス
肝硬変に対する幹細胞治療については、非代償性肝硬変やHBV関連肝硬変を対象とした臨床研究、システマティックレビュー、メタアナリシスが報告されています。
一方で、原因疾患、重症度、投与細胞、投与回数、評価期間は研究ごとに異なります。そのため、現時点では有効性を断定する段階ではなく、研究結果を慎重に解釈することが重要です。
肝機能検査データの改善
複数の臨床研究では、臍帯由来MSC投与後にALT、AST、ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間などの肝機能指標に前向きな変化が報告されています。
これらの変化は、肝臓の炎症や代謝、蛋白合成機能などを評価するうえで参考になります。ただし、血液検査値の改善がすべての患者さんに同じように起こるわけではありません。
つらい症状やQOLの変化
臨床研究では、腹水や全身状態、生活の質(QOL)に関する評価も行われています。一部の研究では、腹水や倦怠感などに関する前向きな変化が報告されています。
ただし、肝硬変の症状は、原因疾患、栄養状態、腎機能、感染症、門脈圧亢進など複数の要因に左右されます。そのため、MSC投与だけで症状改善を判断するのではなく、標準治療や生活管理を含めた総合的な評価が必要です。
線維化環境と肝修復に関する評価
基礎研究では、WJ-MSCや臍帯由来MSCが肝星細胞の活性化を抑え、コラーゲン産生や線維化環境に働きかける可能性が報告されています。
臨床研究でも、肝機能指標やChild-Pugh、MELDなどを通じて、肝予備能や肝機能への影響が評価されています。
ただし、硬くなった肝臓が完全に元通りになることを示す段階ではなく、現時点では肝修復環境への作用や肝機能指標の変化として理解することが適切です。
長期追跡研究で報告される予後への可能性
HBV関連非代償性肝硬変を対象とした長期追跡研究では、臍帯由来MSC投与群で肝機能や長期生存率に前向きな結果が報告されています。
ただし、対象疾患や患者背景は限られており、すべての肝硬変に同じ結果が当てはまるわけではありません。今後も、原因疾患や重症度ごとの大規模な検証が必要です。
POINT
- 臍帯由来MSCを用いた研究では、肝機能指標に前向きな変化が報告されています。
- 腹水やQOLに関する評価でも、前向きな結果が報告されることがあります。
- WJ-MSCや臍帯由来MSCは、肝星細胞や線維化環境への作用が研究されています。
- 長期追跡研究では、HBV関連非代償性肝硬変で肝機能や予後への可能性が報告されています。
- 有効性を確定するには、原因疾患や重症度ごとの大規模な検証が必要です。
幹細胞治療は安全?副作用の心配は?
新しい治療を検討する際、最も重要なのが安全性です。再生医療は発展中の分野であり、肝硬変に対する幹細胞治療も、短期的な安全性だけでなく長期的な安全性を慎重に評価する必要があります。
これまでの臨床研究データから見る安全性
臍帯由来MSCを用いた肝硬変治療の臨床研究では、重篤な副作用が少ないことが報告されています。一方で、対象疾患、重症度、投与方法、投与量によって安全性評価は異なります。
特に、非代償性肝硬変では、感染症、出血傾向、腎機能低下、肝性脳症などを伴うことがあり、投与前後の慎重な管理が必要です。
副作用として報告される可能性のあるもの
一部の研究では、幹細胞投与後に次のような軽度の副反応が報告されることがあります。
- 一時的な発熱
- 軽い頭痛
- 注射部位の軽度な痛みや違和感
多くは一過性とされていますが、患者さんの状態によっては慎重な経過観察が必要です。特に肝硬変では免疫機能や凝固機能が低下している場合があるため、感染管理や出血リスクにも注意が必要です。
長期的な安全性評価も重要
MSCを用いた臨床研究では、腫瘍化などの重大なリスクは多く報告されていません。ただし、肝硬変では肝がんのリスクそのものが高いため、投与後も定期的な画像検査や腫瘍マーカーの確認が重要です。
細胞治療である以上、短期的な副反応だけでなく、長期的な安全性を慎重に評価していく必要があります。
現時点では、臍帯由来MSCを用いた肝硬変研究で安全性に関する前向きな報告があります。一方で、投与方法、投与量、対象疾患、重症度によって安全性評価は異なるため、長期的な検証が必要です。
POINT
- 臍帯由来MSCを用いた肝硬変研究では、重大な有害事象が少ないことが報告されています。
- 一時的な発熱、頭痛、注射部位の違和感などが報告されることがあります。
- 非代償性肝硬変では、感染症、出血、腎機能低下などにも注意が必要です。
- 腫瘍化などの重大なリスクは多く報告されていませんが、肝硬変では肝がんリスクがあるため継続的な経過観察が必要です。
- 長期的な安全性と有効性については、今後も検証が必要です。
おわりに:肝硬変に対する再生医療研究のこれから
肝硬変では、慢性炎症、肝細胞障害、肝星細胞の活性化、線維化、門脈圧亢進、肝機能低下などが複雑に関わっています。
WJ-MSCや臍帯由来MSC、セクレトームを用いた研究では、抗炎症作用、免疫調整作用、肝星細胞の活性化抑制、線維化環境の調整、肝修復環境への作用が検討されています。
一方で、WJ-MSC療法は肝硬変を治癒させる治療として確立されているわけではなく、原因疾患や重症度によって治療可能性は異なります。今後は、より大規模で長期的な臨床研究によって、安全性と有効性を慎重に検証していく必要があります。
WJ-MSC療法やセクレトーム研究は、肝硬変に対する新しい再生医療の研究領域として、今後の発展が期待されています。
- 非代償性肝硬変患者に対する臍帯由来MSC投与により、肝機能、腹水、安全性に前向きな変化が報告された臨床研究
Human umbilical cord mesenchymal stem cells improve liver function and ascites in decompensated liver cirrhosis patients - 慢性B型肝炎由来の非代償性肝硬変患者に対して、臍帯由来MSCの免疫調整作用、肝機能、予後への影響を評価した臨床研究
A study about immunomodulatory effect and efficacy and prognosis of human umbilical cord mesenchymal stem cells in patients with chronic hepatitis B-induced decompensated liver cirrhosis - HBV関連非代償性肝硬変患者219名を対象に、臍帯由来MSC投与後の長期生存率、肝機能、安全性を評価したランダム化比較試験の長期追跡研究
Mesenchymal stem cell therapy in decompensated liver cirrhosis: a long-term follow-up analysis of the randomized controlled clinical trial - HBV関連非代償性肝硬変患者に対するヒト臍帯由来MSC投与について、安全性、忍容性、肝機能、凝固機能、生存率を評価した臨床研究
Treatment of human umbilical cord-derived mesenchymal stem cells for hepatitis B virus-associated decompensated liver cirrhosis: A clinical trial - 肝硬変に対するMSC療法の有効性と安全性を検討し、肝機能、MELD、Child-Pughなどの指標を評価したシステマティックレビュー・メタアナリシス
Efficacy and safety of mesenchymal stem cell therapy in liver cirrhosis: a systematic review and meta-analysis - ヒト臍帯ウォートンジェリー由来MSCが、ラット肝線維化モデルにおいて肝機能、線維化、肝組織修復に作用する可能性を示した基礎研究
The therapeutic potential of human umbilical mesenchymal stem cells from Wharton’s jelly in the treatment of rat liver fibrosis - ヒトWJ由来幹細胞を肝障害ラットへ移植し、血液生化学、組織学的評価、肝線維化への影響を検討した基礎研究
Transplantation of human Wharton’s Jelly-derived stem cells alleviates chemically induced liver fibrosis in rats - ヒト臍帯由来MSCが肝星細胞の活性化を抑え、肝線維化を軽減する可能性を示した基礎研究
Human Umbilical Cord Mesenchymal Stem Cells Ameliorate Hepatic Stellate Cell Activation and Liver Fibrosis - ヒト臍帯由来MSCが、可溶性因子の分泌を介して肝星細胞の活性化を抑制し、肝線維化を軽減する可能性を示したセクレトーム関連研究
Human umbilical cord mesenchymal stem cells attenuate liver fibrosis in mice and inhibit hepatic stellate cell activation by secreting soluble factors - MSCセクレトームが肝疾患に対する無細胞治療として、抗炎症作用、肝細胞保護、組織修復環境に関与する可能性を整理したレビュー
The mesenchymal stem cell secretome as an acellular regenerative therapy for liver disease - MSCとMSCセクレトームが、肝疾患における炎症、線維化、肝再生、組織修復にどのように関与するかを整理したレビュー
Regenerative Potential of Mesenchymal Stem Cells’ (MSCs) Secretome for Liver Diseases
