自閉症(ASD)の幹細胞治療|効果と子どもに見られた変化

自閉症スペクトラム障害への幹細胞治療について

ほしいものが相手に伝わる。友だちと好きな遊びを楽しむ。自閉スペクトラム症(ASD)のお子さんにとって、毎日のこうしたやり取りは、自分の気持ちを表したり、人とつながったりする大切な時間です。

発達障害の中でも、この記事ではASDのお子さんを対象とした幹細胞治療の研究を取り上げます。ほかの発達障害への効果は、これらの研究では調べていません。研究の焦点は、ことばや人との関わりにどんな変化があるか、そして投与中や投与後の安全性です。まずは、療育を続けながら幹細胞とその分泌物の投与を受けた5歳のお子さんの記録を見てみましょう。

ことばと遊びに広がりが見られた、5歳のお子さんの記録

初めは一語で思いを伝えていたお子さんが、複数の言葉を使って伝えるようになりました。あいさつや遊びの時間には、クラスの友だちや先生と関わる姿も記録されています。気持ちを表すときには、ボードを使うこともありました。

このお子さんが受けていたのは、言語療法や作業療法、学校での個別の支援です。その間に、へその緒の組織に由来する幹細胞と、細胞が出す物質(セクレトーム)の投与も受けました。2023年の報告当時、著者3人のうち2人の所属先は、当サイトを運営するマレーシアの23Cでした。

POINT

  • 一語で伝えていたお子さんが、複数の言葉を使うようになりました。あいさつや遊びの時間には、クラスの友だちや先生と関わる姿も見られました。
  • これは、療育を続けながら幹細胞とその分泌物の投与を受けた、5歳のお子さん一人の経過です。

23Cが使う、へその緒の組織に由来する幹細胞

へその緒を輪切りにすると、血管のまわりにゼリーのような組織があります。その部分が「ウォートンジェリー」です。23Cは公式資料で、ドナーから提供されたこの組織から間葉系幹細胞(WJ-MSC)を取り出して育て、治療に使うと説明しています。へその緒の血液に含まれる細胞とは、採る場所も種類も異なる細胞です。

幹細胞には、自分と同じ性質を持つ細胞を増やす力があります。23Cが公開している培養施設の資料によると、出荷前の品質試験で確かめるのは、不純物の有無や、生きている細胞の割合などです。施設では製造のまとまりごとに番号を付け、どの細胞をどなたに使ったかを後からたどれるように記録しています。

幹細胞治療がお子さんに適しているか、どのように投与するかを判断するのは、提携医療機関の医師です。冒頭で紹介した5歳のお子さんの報告では、WJ-MSCと細胞の分泌物を使い、その間も言語療法などを続けていました。

自閉スペクトラム症(ASD)で幹細胞が研究されている理由

幹細胞には、周りの細胞に合図を送る働きがあります。ASDの研究で関心を集めているのは、その合図を受けて、脳で情報を伝える神経細胞や、その働きを支える細胞にどんな変化が起きるかです。

ことばや音を受け取る脳と、その「見守り役」

名前を呼ばれて声のした方を向く。好きな歌の出だしに気づく。どちらの場面でも、脳の中では神経細胞どうしが合図を交わしています。枝のように伸びた突起の先にある、合図の受け渡し場所が「シナプス」です。

そのそばでは、脳の免疫細胞「ミクログリア」が周囲の変化を見守っています。不要になったものを片付け、神経細胞どうしのつなぎ目を整えるのも、ミクログリアの仕事です。

ASDのある方から提供された脳組織を調べた研究では、脳の一部でミクログリアなどが活発に反応している様子が観察されました。脳で起こるこうした炎症反応を「神経炎症」といいます。神経細胞と周りの免疫細胞の関わりに研究者が目を向けるきっかけの一つです。

子どもの血液から調べた、細胞の中の小さな「発電所」

神経細胞が合図を伝えるときにも、体を動かすときにも、エネルギーが要ります。細胞の中でそのエネルギーを作るミトコンドリアは、小さな発電所のような存在です。エネルギーを作る過程では、活性酸素も生まれます。活性酸素が増え、それを抑える働きとの釣り合いが崩れた状態が「酸化ストレス」です。

研究者は、ASDのある子ども10人と比較のために参加した子ども10人から血液を採り、白血球の一種「リンパ球」を調べました。注目したのは、その中のミトコンドリアが活性酸素の一種「過酸化水素」を作る速さです。同じ時間に作られた量を比べると、平均ではASDのある子どものグループの方が多いという結果でした。

幹細胞が届ける「伝言」を調べた実験

研究者は、細胞は通れず、細胞が出す小さな物質は通れる仕切りを使いました。片側で育てたのはヒトのへその緒に由来する間葉系幹細胞、もう片側で育てたのはラットの神経細胞です。二つを仕切り越しに育てると、神経細胞だけを育てたときより、枝のような突起が長く伸びました。

この実験で研究者が考えたのは、幹細胞から放たれた物質が、仕切りを越えて「伝言」を届けた可能性です。細胞が放つ物質をまとめてセクレトームと呼びます。その中には、成長や免疫の働きに関わるたんぱく質や、膜で包まれた小さな粒(細胞外小胞)があり、エクソソームはその粒の一種です。

同じ研究チームは、ASDの特徴の一部を再現したラットの脳も調べました。調べた部位でミクログリアを数えると、へその緒由来の幹細胞を投与したグループでは、投与しなかったグループより少ないという結果でした。こうして細胞や動物を調べると、幹細胞がどこに働きかけるのかを一つずつ追うことができます。お子さんが参加する研究で調べるのは、ことばや人とのやり取りなど、ふだんの暮らしに現れる変化です。

POINT

  • 脳の「見守り役」のミクログリアは、神経細胞のそばで不要なものを片付け、細胞どうしのつなぎ目を整えます。
  • へその緒由来の幹細胞とラットの神経細胞を仕切り越しに育てると、神経細胞だけのときより、枝のような突起が長く伸びました。
  • お子さんの研究では、ことばや人とのやり取りなど、暮らしの中の変化を見ています。

幹細胞治療の効果について、人との関わりや日常生活で分かっていること

ここで紹介する二つの比較試験には、いずれもASDと診断されたお子さんが参加しました。友だちと遊ぶことと、自分で着替えること。どちらも大切な日常の一場面ですが、研究では別々の「ものさし」で変化をみます。効果を考えるうえでもう一つ大切なのが、使った細胞の種類です。

へその緒の組織に由来する間葉系幹細胞(MSC)を調べた試験には、137人のお子さんが登録されました。試験登録に公表された結果では、最も重視した6か月後の人との関わりやコミュニケーションに、比較用の点滴(プラセボ)との明らかな差は見られませんでした。

別の試験で使ったのは、へその緒の血液に含まれる細胞(臍帯血由来単核細胞)です。血液検査で免疫の働きに特定の変化が見られた3〜8歳の子ども36人が、ふだんの療育を続けながら参加しました。

最後まで評価を受けた34人を比べると、13週後に人とのやり取りを表す得点の改善幅が大きかったのは、臍帯血の細胞を使ったグループです。着替えなどを含む日常生活への適応を表す総合得点には、プラセボ群との明らかな差は見られませんでした。

その子らしい伝え方を育てる、家庭と園・学校での支援

自閉スペクトラム症(ASD)は、人とのやり取りや興味の持ち方、感覚の受け取り方などに特徴が現れる発達障害の一つです。にぎやかな教室では声を聞き取りにくくても、静かな場所なら好きな遊びの話が弾むこともあります。家では、声をかける前にテレビを消すのも、声が届きやすくなる工夫の一つです。

お子さんが伝えやすい方法は一人ひとり違います。たとえば、おやつの時間なら、言葉で名前を言うことも、写真を指さして選ぶことも、自分の希望を相手に伝える大切なやり取りです。

言語療法では、ことばや身ぶりなど、お子さんに合った伝え方を育てます。作業療法で練習するのは、着替えや食事など、暮らしの中の動作です。園や学校でも、次の活動を絵で示すなど、見通しを持ちやすくする工夫があります。

幹細胞治療を研究した試験でも、お子さんは日頃の療育を続けていました。ご本人が得意な伝え方や、家でうまくいった工夫は、治療を考えている間も毎日の暮らしに生かしていけます。

食べやすさとお腹の調子から見る、脳と腸のつながり

味は好きでも、粒が口に残ると食べにくい。なめらかにすると同じ食材でも口にしやすい。食卓には、食感やにおいの感じ方が表れることがあります。腸と脳が神経などを通して互いに情報を伝え合う、この双方向のつながりが「腸脳相関」です。食べるものも、腸の中の細菌が暮らす環境に関わります。

ASDのある子を含む247人の子どもを調べた研究では、よく食べる食品の種類と、便に見られる腸内細菌の多様さに関連がありました。お腹の調子を考える手がかりは、便の様子だけでなく、毎日の食卓にもあります。

お子さんの幹細胞治療について23Cへ相談する

23Cのオンライン面談(Zoom)は、ことばや遊びなど、ご家族が暮らしの中で大切にしたいことをスタッフがお聞きする場です。お話に合わせて、治療でどのような変化が研究されているか、お子さんの体にはどのような負担があるかをご説明します。具体的な治療をご希望の場合、お子さんの状態を踏まえ、治療が適しているかや投与方法を検討するのは提携医療機関の医師です。ご相談は、お問い合わせフォームから受け付けています。

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参考文献