再生医療とは、病気やケガなどによって損傷した組織や臓器の機能を回復させることを目的とした最先端の医療分野です。
従来の治療法では修復が難しかった組織の再生を可能にし、患者自身の細胞を活用することで、副作用の少ない治療を目指します。
その中でも幹細胞は、体内のさまざまな細胞へと分化する能力(多分化能)と、自ら増殖して維持される能力(自己複製能)を持つ特別な細胞です。
これらの特性を活かし、組織の再生や病気の治療に幅広く応用されており、神経疾患、心疾患、関節疾患、さらには免疫関連の治療など、多くの分野で研究・実用化が進められています。
幹細胞の種類
再生医療において使用される幹細胞には、大きく3つの種類があります。
- ES細胞(胚性幹細胞): 受精卵の胚から作成され全ての細胞に分化可能。しかし倫理的な問題から利用は制限。
- iPS細胞(人工多能性幹細胞): 体細胞をリプログラムすることで作成。分化能力は高いが腫瘍形成のリスクあり。
- 体性幹細胞(成体幹細胞): すでに人体内に存在し倫理的な問題がなく安全性が高いため現在最も実用的。
幹細胞の種類 | 多能性 | 分化能力 | 利用上の課題 |
---|---|---|---|
ES細胞 (胚性幹細胞) |
高い | 全ての細胞へ 分化可能 |
倫理的問題、 腫瘍形成のリスク |
iPS細胞 (人工多能性幹細胞) |
高い | 全ての細胞へ 分化可能 |
腫瘍形成のリスク、 技術的課題 |
体性幹細胞 (成体幹細胞) |
低い | 限られた細胞へ 分化可能 |
採取量の制限、 増殖能力の低下 |
再生医療としての幹細胞は、私たちの身体の中にすでに存在する体性幹細胞が現在最も安全で実用的であるということになります。
体性幹細胞の種類
身体の様々な組織にある幹細胞には、造血幹細胞・神経幹細胞・皮膚幹細胞・腸管幹細胞・乳腺幹細胞・精巣幹細胞・間葉系幹細胞など多くの種類が存在します。
幹細胞には、「自己増殖能」といわれるそれ自身を増やしていくものと、分裂して様々な細胞に変化する「分化能」があります。
体性幹細胞の中でも、最も多くの種類の細胞に分化する“間葉系幹細胞”が、現在の幹細胞治療の主役となっており、その分化の可能性は血液系細胞・神経系細胞・表皮系細胞・軟骨細胞・筋肉・肝臓・心臓など広範囲です。
間葉系幹細胞の種類
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells, MSC)は、骨髄、脂肪、臍帯などに存在し、骨・軟骨・脂肪・神経・筋肉など多様な細胞へ分化する能力を持つ幹細胞の一種です。
さらに、組織修復能力や免疫調整機能も備えており、さまざまな疾患の治療に応用されており、特に関節疾患・神経疾患・心血管疾患・自己免疫疾患などの分野で研究・臨床応用が進んでいます。
再生医療に使用される間葉系幹細胞は、採取源によって大きく3つのタイプに分類されます。
骨髄由来間葉系幹細胞
- 以前は再生医療の主流だったが現在は他のMSCに移行しつつある。
- 自己複製能力と分化能がバランスよく備わっている。
- 免疫調整能力が比較的高く、自己免疫疾患の治療に応用される。
脂肪由来間葉系幹細胞
- 体への負担が少なく大量の細胞を採取可能。(局所麻酔下での脂肪吸引で採取)
- 培養が容易で、比較的短期間で増殖できる。
- 抗炎症作用があり、炎症性疾患の治療にも応用される。
臍帯由来間葉系幹細胞
- 最も増殖能力が高く細胞の若さを保持している。
- 免疫原性が低く他家移植にも適している。(拒絶反応が起きにくい)
- 採取が容易で倫理的な問題も少ない。(新生児の臍帯から採取し、ドナー負担なし)
- 成長因子や抗炎症作用を持つサイトカインを豊富に分泌し、治療効果が期待される。
採取の容易さ | 増殖能力 | 分化能力 | 免疫調整能力 | 使用形態 (自家/他家) |
|
---|---|---|---|---|---|
骨髄由来 | 難しい | 中 | 高 | 高 | 他家 |
脂肪由来 | 普通 | 高 | 低~中 | 中 | 主に自家 |
臍帯由来 | 容易 | 非常に高い | 高 | 非常に高い | 他家 |
- 自家幹細胞: 患者自身の体から採取した幹細胞を培養・増殖させ、再び体内に戻す治療法。
- 他家幹細胞: 健康なドナーから採取された幹細胞を用いる治療法。
間葉系幹細胞の3つの効果
間葉系幹細胞(MSC)は、体内でさまざまな組織の修復や免疫調整を行う能力を持っています。その働きは主に以下の3つのメカニズムによって実現されます。
パソトロフィック効果
MSCは体内で炎症や組織損傷が発生すると、その部位から発せられるケモカイン(炎症シグナル)を感知し、血流を介して損傷部位へ移動する能力を持っています。この特性により、MSCは損傷した組織の近くに集まり、修復を開始します。特に、線維芽細胞、血管内皮細胞、免疫細胞と相互作用しながら、炎症を抑え、組織の回復を促します。
ホーミング効果
MSCは、炎症や損傷部位に移動した後、そこに定着(ホーミング)し、損傷した組織の修復に貢献します。このプロセスでは、MSCが局所で必要な細胞へ分化するだけでなく、修復を助けるサイトカインや成長因子を分泌し、損傷組織の機能回復をサポートします。
損傷部位には、炎症性サイトカインや成長因子が局所的に増加し、MSCを引き寄せます。MSCはこれらのシグナルを受け取り、血管内皮細胞や線維芽細胞と相互作用しながら組織修復を行います。
パラクライン効果
MSCは、サイトカイン、成長因子、エクソソーム などの生理活性物質を分泌し、損傷した組織の修復を促進します。これにより、MSCは自身が直接分化しなくても、周囲の細胞の機能回復をサポートすることができます。特に、免疫細胞の活性を調整し、炎症反応を抑制する効果も持っています。
この効果は、自己免疫疾患や慢性炎症性疾患の治療 において特に重要とされ、免疫細胞の活性を調整しながら炎症の過剰反応を抑えます。
臍帯由来(ウォートンジェリー)間葉系幹細胞のメリット
臍帯由来(ウォートンジェリー)間葉系幹細胞は、その特性から非常に高い治療効果が期待されています。
免疫拒絶などのリスクのみを考えると、自家幹細胞が最も安全だと思われると思いますが、その増殖能力や分化能力は年齢を重ねるごとに低下していきます。
また、既往症などの情報なども培養されるため、病気のリスクは高まる可能性があります。
自家細胞はあくまでも歳を重ねて機能の低下した自分の細胞ということです。
臍帯由来(ウォートンジェリー)間葉系幹細胞は、0歳児の臍帯のウォートンジェリーから採取されるため、加齢による細胞の劣化がない点が大きな利点です。
また、臍帯組織には豊富な間葉系幹細胞が含まれており、骨髄や脂肪由来と比較しても増殖能力が高く、長期間にわたり分化能を維持できるとされています。