海外で受ける幹細胞治療の安全性と法規制、避けるべき国とは?

幹細胞治療の選択肢について、近年、多くの関心が寄せられています。特に、日本国内では主に自己由来の幹細胞を用いた治療が主流ですが、『より若い幹細胞を使用した治療を受けたい』と考える方も増えています。

しかし、自己由来ではない若い幹細胞を用いた治療を受けるためには、海外の医療機関を選択する必要があります。
その際、どの国を選ぶべきか、信頼できる情報が限られているため、適切な判断が難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

そこで、本記事では、幹細胞治療を提供している東南アジアの国々の中で、特に安全性に注意が必要とされる国について解説します。

違法クリニックの増加: タイ王国

「タイ 幹細胞」と検索すると、「幹細胞治療、世界で唯一可能な国へと外国人が増加」といったニュース記事が上位に表示されることがあります。

しかし、こうした記事の中には、2007年の情報に基づいたものも多く、現在の実情とは異なる場合があります。
海外の幹細胞治療に関する情報は、日本語で検索しても最新の情報に更新されていないケースが多いため、慎重な確認が必要です。

過去にタイでは幹細胞治療に関連する重篤な事故が発生し、その後、政府は特定の疾患(白血病、多発性骨髄腫、先天性免疫不全、その他血液のがん)以外の幹細胞治療を禁止しています。

その結果、幹細胞の培養に関する統一された安全基準が存在せず、外国から持ち込まれた幹細胞が使用されるケースも報告されています。

また、幹細胞の採取に関しては、ドナーの適正性が不透明であり、一部では違法な臓器売買に関与する可能性が指摘されることもあります。

さらに、タイでは幹細胞クリニックに関する誇大広告が問題視されており、2024年10月31日の報道によると、年間400件以上の訴訟が提起されているとされています(出典: Nation Thailand)。

タイでは、幹細胞治療の無許可提供が問題視されており、2024年時点で政府は未認可の幹細胞クリニックを摘発し、違法診療を行った施設に対して閉鎖命令を出しています。タイ保健省(MOPH)によると、幹細胞治療は「白血病、多発性骨髄腫、先天性免疫不全、その他血液のがん」に限られ、それ以外の疾患に対する治療は違法と見なされる場合があります。

出典: タイ王国保健省(MOPH)

その他、民間の幹細胞治療が違法とされている国

かつては法規制が曖昧だった国でも、現在では幹細胞治療の提供が明確に違法とされているケースが増えています。
こうした国々では、認可を受けていない医療機関や企業が幹細胞治療を提供しようとすることがあり、適切な法規制を確認することが重要です。

また、日本国内の一部の業者やクリニックが、違法と認識せずに海外の幹細胞治療を広告している事例も報告されています。
適切な治療を受けるためには、提供国の最新の法規制を十分に調査することが求められます。

韓国

韓国では、認可を受けた製薬会社以外での幹細胞培養は認められていません。

そのため、違法に培養された幹細胞が海外市場へ流通している可能性が指摘されており注意が必要です。
また、外国人向けに無許可で行われる治療が存在するとの報告もあります。

韓国では、幹細胞の培養および製造は、食品医薬品安全処(MFDS)によって規制されており、認可を受けた製薬会社や指定医療機関のみが実施可能です。無許可での幹細胞培養や販売は、医薬品法違反とみなされ、違反者には罰則が科される場合があります。

出典: 韓国食品医薬品安全処(MFDS)

台湾

台湾では、2024年に再生医療法および再生医療製剤条例が可決され、明確な法整備が行われました。

  • 医療機関での実施が必須:
    幹細胞治療は、適切な認可を受けた医療機関でのみ提供が許可されています。
  • 政府の承認と登録義務:
    衛生福利省の承認を受け、さらに地方の所管当局への登録が必要です。
  • 幹細胞製剤の品質基準:
    再生医療製剤は医薬品として分類され、GMP認証の工場での製造が義務付けられています。医薬品メーカーが製造または輸入する場合、衛生福利省に対する検査・登録申請が必要です。

台湾では、2024年6月に「再生醫療法」と「再生醫療製劑條例」が成立しました。この法律により、幹細胞治療の提供は政府の承認を受けた医療機関に限定され、非医療機関での提供は違法とされました。幹細胞治療を実施するためには、衛生福利部の承認を受け、さらに地方の所管当局への登録が義務付けられています。

再生医療製剤は医薬品として分類され、GMP認証の工場での製造が義務付けられています。製造・輸入の際には、衛生福利部への検査・登録申請が必須となっており、これに違反した場合は罰則の対象となります。

出典: 台湾衛生福利部(MOHW)

インドネシア

インドネシア政府は幹細胞治療の安全性を確保するため、基準の策定を進めています。

  • 幹細胞治療の提供機関:
    現時点では、幹細胞治療を実施できるのは国立の教育病院のみとされており、民間の幹細胞治療は違法とされています。
  • 特例措置:
    バリ島のサヌール地区に経済医療特区が設置され、特定の条件下で海外からの幹細胞技術が導入される可能性があります。

インドネシアでは、幹細胞治療の提供は法律・規制によって国立の教育病院に限定されています。2014年に制定された保健省規定第32号により、幹細胞治療を提供できる医療機関は国が指定した病院に限られ、一般の民間クリニックでの提供は違法とされています。

また、バリ島のサヌール地区に設置された経済医療特区において、特定の条件下で海外からの幹細胞技術が導入される可能性があると報告されています。

出典: インドネシア保健省(Kemenkes)

フィリピン

フィリピンでは、幹細胞治療の安全性を確保するため、政府が厳格な規制を導入しています。

  • 大規模病院に併設する幹細胞クリニックのみ許可:
    幹細胞治療を行う施設は、厳格な審査を通過した医療機関に限定されています。
  • 違法治療による健康被害:
    違法な民間クリニックによる治療で死亡事故が発生しており、政府は国民に対し注意を促しています。

フィリピン政府は、2013年に行政命令AO 2013-0012を発表し、幹細胞治療の提供を政府認定の施設に限定しました。幹細胞治療を行うには、フィリピン保健省(DOH)の認可を受けた医療機関である必要があり、それ以外のクリニックでの提供は違法とされています。

違法な幹細胞治療による健康被害が報告されており、特に2019年には未認可の治療を受けた患者が死亡した事例が確認されています。フィリピン政府は無許可治療に対して厳格な取り締まりを行っており、違反者には罰則が適用されます。

出典: フィリピン保健省(DOH)

ベトナム

ベトナムでは、幹細胞治療に関する明確な法整備は整っていないものの、一部の臨床試験や研究を除いて違法であるとする声明が発表されています。
  • 臨床試験・研究目的の場合:
    国立生物医学研究倫理委員会の審査・評価・承認を受けることが義務付けられています。
  • 無許可の幹細胞治療は禁止:
    商業的な幹細胞治療の提供は、現時点では認められていません。

ベトナムでは、幹細胞治療に関する明確な法整備はまだ整っていませんが、国立生物医学研究倫理委員会の審査・評価・承認を受けない商業的な幹細胞治療の提供は禁止されています。

現時点では幹細胞治療は「臨床研究としてのみ認められる」とされており、無許可での提供は医療法違反となる可能性があります。2023年には無許可の幹細胞治療を行ったクリニックが摘発され、政府は規制強化を進めています。

出典: ベトナム保健省(MOH)

このように、多くの国では国民の健康を守るために、幹細胞治療の安全性に関する厳格な法規制や制度が整備されています。

一方で、いずれの国の認可も受けていない幹細胞を海外から持ち込み、治療を提供している日本の業者も存在します。
しかし、多くの国ではこのような行為が違法とされており、慎重な判断が求められます。

海外で安全に幹細胞治療を受けるならマレーシア

現在、アジアにおいて幹細胞治療を安全に受けられる国は、日本とマレーシアに限られます。
日本では自己由来の幹細胞を用いた治療が主流ですが、若く健康なウォートンジェリー幹細胞を用いた治療を希望する場合、マレーシアが適切な選択肢となります。

マレーシアでは、幹細胞治療に関する法規制が整備されており、政府の監督のもと、安全性と品質が確保された環境で治療を受けることが可能です。

マレーシアでは、幹細胞治療の規制は2009年に策定された「幹細胞および細胞ベース研究・治療ガイドライン」に基づいて管理されており、認可を受けた医療機関でのみ幹細胞治療が実施可能です。ヒト胚性幹細胞の利用は禁止されており、間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療は臨床研究として慎重に管理されています。

幹細胞治療を行うには、マレーシア保健省(MOH)の監督下で、国家幹細胞委員会(NSCERT)の審査・承認を受ける必要があります。また、幹細胞治療製品の品質管理は国家医薬品規制庁(NPRA)によって管理され、GMP(Good Manufacturing Practice)基準の遵守が義務付けられています。

出典: マレーシア保健省(MOH)

マレーシアでは、造血幹細胞および臍帯由来幹細胞(ウォートンジェリー幹細胞を含む)の利用が認められており、幹細胞治療を提供する施設は、MOHおよび国家幹細胞研究倫理小委員会(NSCERT)の承認を受ける必要があります。許可のない医療機関による幹細胞治療の提供は、私立医療施設・サービス法(PHFS Act 1998)に違反する可能性があり、監督当局による規制の対象となります。

出典: 国家医薬品規制庁(NPRA)