cGTP

概要と背景

cGTP(シージーティーピー)は「current Good Tissue Practice」の略称で、日本語では現行の適正組織取扱基準などと訳されます。

ヒトの細胞・組織に関する製品の製造管理基準の一種であり、医薬品のGMPになぞらえて組織版GMPとも呼べるものです。

cGTPは米国食品医薬品局(FDA)の生物製剤局(CBER)が管轄する規制で、ヒト細胞・組織、および細胞・組織由来製品(HCT/P)の取扱いに適用されます。背景には、移植や細胞治療の普及に伴い、これら生体由来製品を介して感染症が「伝播(伝染)しないよう安全管理を徹底する必要性」が高まったことがあります。

例えば、臓器移植・組織移植でドナーからレシピエントへ疾病が移るリスク、細胞培養時の細菌・真菌汚染リスクなどが問題視され、これらを防止するための体系的基準としてcGTPが策定されました。

米国では2004年にFDAが最終規則を公布し、2005年5月以降に収集されるヒト細胞・組織にはcGTP遵守が義務付けられました。

cGTPは広範囲の製品に適用され、骨、皮膚、角膜、心臓弁、軟骨などの組織移植片から、幹細胞や臍帯血、さらには体外受精に用いる精子・卵子・胚なども対象に含まれます。

ただし、すでに別の規制体系があるもの(例:臓器移植や輸血用血液)はcGTPの対象外となっています。また、細胞や組織であっても加工等で特定の範囲を超える操作が施された場合(「著しく変化」した場合)は医薬品や医療機器とみなされ、cGTPではなく他の規制(GMP等)が適用されます。

つまりcGTPは比較的加工度の低いヒト細胞・組織の取扱基準と言えます。

求められる主な要件や基準

cGTPの要件は一言で言えば「感染性疾患の伝播を防ぐための管理」に尽きます。

具体的には、ヒト由来の細胞・組織を提供(採取)する段階から患者に移植されるまで、一貫して清浄さと安全性を確保するための基準が設けられています。
その主な内容を挙げると:

ドナーの適格性評価

提供者(ドナー)から感染症が伝達しないようにするため、ドナーの健康状態や病歴を評価し、血液検査によってHIVや肝炎ウイルスなどの感染症がないことを確認します。

これをドナースクリーニングおよびドナーテストといい、cGTPの中核的要件の一つです。不適格と判断されるドナーの細胞・組織は使用してはなりません。

施設・設備と環境の管理

細胞や組織を扱う施設は清潔区域を備え、無菌操作が可能な環境を維持します。例えばクリーンルームや安全キャビネットの設置、定期的な環境モニタリング(微生物検査)などの対策が求められます。

また、使用する機器や器具の検証・メンテナンスも重要で、不備があれば微生物汚染や取り違えの原因となるため定期点検・校正を行います。

原材料・試薬等の管理

培養液や保存液、試薬、容器包装など細胞・組織と接触する物品について、その品質管理とトレーサビリティを確保します。無菌性や内毒素管理が必要な資材は適切に試験されたものを使い、各ロットを記録します。

プロセスの管理(採取・処理・保管・輸送)

細胞・組織の採取方法は無菌的に行い、採取後速やかに適切な温度条件下で保存・輸送します。処理工程(洗浄、濃縮、冷却保存、凍結保存など)も、組織の機能を損なわずかつ汚染を防ぐ手順を確立し、その手順に従って行います。

製品のラベリング管理も厳格に行い、内容物やドナー情報、有効期限などを明示して誤用を防止します。保管中は温度管理や在庫管理を徹底し、輸送時もコールドチェーンなど適切な条件を維持します。

品質管理と文書化

各工程で検査やチェックポイントを設け、異常がないか確認します。例えば無菌試験や細胞数・生存率の測定などです。

また、全ての工程について文書化された標準手順書を用意し、作業ごとの記録を残します。万一問題が発生した際には原因調査を行い、該当ロットの使用中止や廃棄、関連ドナーから採取された他製品への影響評価など、**是正措置**のプロセスも定められています。

これらcGTPのコア要件は、FDAの規則【21 CFR 1271 Subpart CおよびD】に詳細が規定されています。

要件を平易にまとめれば、「ヒト細胞・組織を扱うあらゆる段階で清潔さと安全を確保し、感染症の伝播リスクを最小化すること」に尽きます。

例えば、日本の再生医療等安全性確保法における細胞培養加工施設の基準や、臍帯血バンクの指針なども基本的には同様の考え方に沿っており、cGTPは世界的に見ても細胞・組織製品の安全確保に不可欠な基盤となっています。

認証(適合)取得の意義やメリット

cGTPへの適合は、細胞・組織を取り扱う組織(バンクや製造施設)にとって倫理的責務かつ法的要件です。

まず米国では、cGTPを遵守しないままヒト細胞・組織由来製品を製造・販売すればFDA法(公衆衛生サービス法)違反となり、厳しい罰則の対象となります。これは患者の安全に直結する問題であるため規制が厳格なのです。

一方で、cGTPに適合していることは施設にとって品質と安全性における優秀性の証明ともなります。例えば、米国の細胞・組織バンクはFDAの査察だけでなく、後述するAABBなどの第三者認証を受けることで、自社施設が国際水準のcGTPを満たしているとアピールできます。

このような認証取得は、利用者(病院や製薬企業)からの信頼獲得につながり、ビジネス上のメリットとなります。

cGTP遵守のメリットとして特に重要なのは、患者や最終受益者の安全確保です。

ドナー由来の感染症伝播を防ぐという目的が達成されれば、移植や細胞治療を受ける患者は不必要な感染リスクに晒されずに済みます。例えば、過去には未検査の臓器や組織によってC型肝炎やHIVが患者に伝染したケースが問題となりましたが、cGTPの厳格な適用によってそうした事態を避けることができます。

これは医療全体への信頼にも寄与し、安全な細胞・組織医療の普及を支えるメリットです。

また、cGTPに適合している施設は国際的な共同研究や事業展開にも有利です。

再生医療や細胞療法はグローバルに展開されることが多く、外国の企業や研究機関と細胞原料を融通し合う場合など、相手先がcGTP適合施設であるかは重要な判断基準になります。

cGTP準拠は「このバンクの細胞は安心して使える」というお墨付きであり、国際協力や事業連携を円滑にするメリットがあります。さらに、規制当局との関係でもメリットがあり、cGTP遵守を徹底していれば査察でも良好な評価を得やすく、新規製品の承認申請時にもスムーズに審査が進むでしょう。

総じて、cGTPの遵守は患者の安全確保と品質向上に資するのみならず、関連組織の信頼性向上や国際展開にも寄与するものです。

認証が製品やサービス、消費者に与える影響

cGTPは主に医療に関わる分野の基準であり、その恩恵は患者や医療サービス利用者に直接及びます。

例えば、cGTPが徹底された細胞培養施設で作製された再生医療用の細胞製品は、雑菌やウイルスに汚染されているリスクが極めて低くなります。患者はそのような安全な細胞治療を受けることで、治療効果を最大限享受できるだけでなく、治療に伴う感染症発症といった二次的な不安を軽減できます。

また、組織移植(骨や皮膚、角膜など)においても、cGTP準拠の組織バンクから提供された移植片は、ドナー検査や処理が適切に行われているため、患者にとって安全性が保証されています。これは移植医療の成功率向上や術後合併症減少にもつながります。

医療サービス提供者側にとっても、cGTP準拠の組織・細胞を扱うことは大きな利点です。

医師や病院は、信頼できるバンクから安全な材料を得ることで、自らの医療行為に専念でき、予期せぬ感染事故対応に追われるリスクを減らせます。製薬企業にとっても、例えば細胞由来のワクチンや治療薬の原材料調達においてcGTPを満たす供給元と提携することで、製品の品質リスクを低減できます。

ひいては医療全体の質の底上げにつながり、患者・医療者双方に良い影響を与えます。

消費者一般の視点では、cGTPという言葉自体は馴染みがないかもしれません。しかし、近年ニュースなどで再生医療の安全性臍帯血バンクの無許可提供問題などが報じられる中、「適切に管理された細胞・組織だけが医療に使われているか」は社会的関心事になりつつあります。

cGTP認証を受けた機関が率先して安全な細胞医療を提供していけば、一般の人々も安心して先進医療を受けられる土壌が醸成されます。つまりcGTPは消費者=患者の権利と安全を守る裏付けとなっており、質の高い医療サービスの提供という形で消費者に貢献していると言えるでしょう。

関連する国際機関や規制当局

cGTPは主に米国FDAの管轄概念ですが、その考え方は国際的にも共有されています。米国ではFDAのCBER(生物製剤評価研究センター)がcGTP規制を運用しており、公衆衛生サービス法(PHSA)に基づいて施設査察や違反時の是正勧告等を行います。

一方、日本でも再生医療安全確保法の下で細胞培養加工施設の許認可基準が定められており、実質的にcGTPと同等の管理(水準)が求められています。また欧州連合(EU)でも、ヒト組織・細胞製品の品質と安全性確保のため2004/23/EC指令などが施行されており、ドナー検査や施設管理についてcGTPと共通する取り決めがあります。

民間の関連団体としては、AABB(米国血液・バイオセラピー協会)やFACT(細胞治療機関認定財団)が国際認証プログラムを提供しています。AABBは元々血液銀行の団体ですが細胞治療分野にも認証を拡大しており、世界各地の臍帯血バンクや細胞処理施設に対しAABB基準への適合認証を与えています。

FACTも造血幹細胞移植などの分野で施設認定を行い、これら第三者機関が補完的にcGTP的な基準の普及に貢献しています。さらにWHOも細胞・組織治療のガイダンスを発出し、各国の規制当局職員を対象に研修を行うなど支援をしています。

総じて、FDAを中心に各国当局と国際団体が連携しながら、ヒト細胞・組織に関する安全管理(cGTP)を世界的に推進している状況です。