AABB

概要と背景

AABB(エーエービービー)は、元々「American Association of Blood Banks(アメリカ血液銀行協会)」という名称で知られていた組織です。

現在は活動領域の拡大に伴いAssociation for the Advancement of Blood & Biotherapiesと改称し、血液医療およびバイオセラピー(細胞治療など)の発展を目的とする非営利団体となっています。

AABBは1957年に設立され、アメリカにおける輸血医療の質向上を牽引してきました。血液バンク(血液センター)や輸血部門の業務標準を策定し、病院や血液センターへの認定(Accreditation)を行っている権威ある国際的認証団体です。

本部は米国メリーランド州ベセスダにあり、全世界で数百を超える施設がAABB認証を受けています。

AABBの活動背景には、輸血による感染症伝播や輸血医療の事故防止への社会的要請があります。20世紀後半、輸血の安全性確保は大きな課題であり、AABBは早くから標準化と監査制度に取り組みました。

1970年代に認証制度を開始し、米国内の血液銀行の多くがAABB認証を取得することで、全米規模で輸血の品質保証ネットワークが形成されました。AABB基準は米国FDAの規制とも密接に関連しており、FDAの血液関連規則はAABBの標準を取り込む形で整備されています。

21世紀に入り、AABBは輸血分野だけでなく細胞治療(臍帯血バンク、幹細胞移植プログラムなど)にも対象を広げ、名称から「血液銀行」の文言を外しました。

現在では輸血用血液のみならず、細胞・組織製品の品質と安全性確保に関する世界標準的な基準策定と認証を行う組織として国際的に活躍しています。

求められる主な要件や基準

AABBの認証を取得するためには、AABBが定める「AABB Standards」(基準書)に適合した運用を行っていることが必要です。AABB Standardsは輸血サービスや細胞療法サービスに関して詳細な項目が規定されたもので、専門家によって定期改訂されています。

その主な内容を、臍帯血バンク(新生児の臍帯血を保管する施設)を例に説明します。

ドナー適格性と同意

臍帯血バンクでは、提供者である母親に適切なインフォームド・コンセント(事前同意)を取得し、健康状態の質問や感染症検査を行います。

AABB基準では、ドナー面接の方法や検査すべきウイルス項目(HBV, HCV, HIVなど)が詳細に決められており、これを満たすことで臍帯血の安全性を確保します。

採取・処理手順

臍帯血の採取から細胞処理・凍結保存までの手順をマニュアル化し、訓練を受けた職員が実施します。

無菌操作の順守、細胞数測定や培養検査などの品質検査実施、検体のラベル表示の正確さなどが基準で定められ、トレーサビリティ(一貫追跡性)が担保されます。

施設と設備の要件

クリーンルームや液体窒素タンクなどの設備基準も含まれます。温度モニタリング、非常用電源、アラームシステムなど、安全に細胞を保管する環境条件が基準で規定されています。

品質管理システム

文書管理、記録保存、従業員教育、内部監査、逸脱管理など、品質マネジメントの仕組みもAABB Standardsに沿って整備します。

これはISOの品質システムに似ていますが、より分野特化した項目(例:輸血検査室の精度管理、移植用細胞の輸送方法など)が盛り込まれています。

輸送と引き渡し

保存している臍帯血を将来患者に提供する際の手順も基準化されています。

依頼から出荷までのプロセス、輸送中の温度管理、受取確認、必要書類の整備などが詳細に決められ、安全かつ確実に移植センターへ届けられる仕組みになっています。

AABB Standardsは輸血サービス向け、細胞治療製品向けなど複数種類ありますが、いずれも患者とドナーの安全を守り、製品(血液や細胞)の品質と有効性を確保することを目的としています。

各基準書は専門家委員会(医師、臨床検査技師、倫理学者などによって作成され、最新の知見や技術に合わせ定期的に改訂されます。認証を希望する施設はこれら基準を満たすよう運用を整備し、AABBから派遣される査察官の現地審査を受けます。

査察では書類レビュー・スタッフへの聞き取り・作業観察などが行われ、不適合がないかチェックされます。審査結果が基準を満たしていると判断されれば認証が付与されます。

認証は2年ごとの更新制で、継続的に基準順守を求められる点も特徴です。

認証取得の意義やメリット

AABB認証を取得する意義は、医療機関やバンクにとって自施設の輸血・細胞療法サービスが国際標準の安全性・品質を達成していることを保証できる点にあります。

これは患者や提供者に対する安心感につながり、施設の信用力を高めます。例えば臍帯血バンクがAABB認証を取得していれば、妊産婦は「ここなら私の提供する臍帯血をきちんと管理してくれる」と安心できますし、移植医も「このバンクの臍帯血なら品質が良いだろう」と信頼します。

事実、一部の国では臍帯血移植に用いるための臍帯血はAABB認証バンク由来であることを推奨・要求するケースもあります。つまりAABB認証は優良施設のお墨付きとして機能し、利用者・医療者から選ばれる施設になるメリットがあります。

また、AABB認証取得過程で施設の運営レベルが飛躍的に向上することも大きなメリットです。

基準に合わせて業務フローや手順書を整備し、スタッフ教育や設備改善を行うことで、組織全体の質が底上げされます。認証取得後も2年毎の更新査察があるため、常に緊張感を持って最新基準に追随する動機付けとなります。

これにより、内部監査や継続教育が習慣化し、スタッフの専門知識も深まります。また、AABB認証の取得と維持には継続的な改善努力が求められるため、内部監査や教育訓練が習慣化し、スタッフの専門知識や士気が向上します。

結果として医療事故の防止や業務効率の向上、部署間のチームワーク強化といった波及効果も得られます。AABB認証を「ダブル認証」(例えばISO 9001とAABB双方)で取得している施設では、品質マネジメントと医療専門基準の相乗効果で、より高いレベルのサービス提供が実現しています。

総じて、AABB認証取得は施設に国際水準の品質保証をもたらし、患者・ドナーからの信頼性向上と組織内部の成熟を同時にもたらすメリットがあると言えます。

認証が製品やサービス、消費者に与える影響

AABB認証が直接対象とする“消費者”は、広義には輸血や細胞治療を受ける患者および血液や細胞を提供するドナーです。

認証施設から提供される血液製剤や細胞療法製品は、厳格な基準の下で管理されているため、患者は安全で効果的な治療を受けることができます。例えばAABB認証血液センターの血液製剤は、ウイルス検査や血液型確認が徹底され、保管・輸送も適切に行われているため、輸血を受ける患者は感染症リスクの極めて低い安全な輸血治療を享受できます。

臍帯血移植の場合でも、認証バンクから提供される臍帯血ユニットは細胞数や活性が基準を満たし、移植成績の向上や合併症リスク低減につながります。要するに、AABB認証は患者に「質の高い血液・細胞医療を安心して受けられる」という利益をもたらしています。

提供者であるドナー側にとってもメリットがあります。

例えば献血者や臍帯血提供者は、自分の提供した血液・細胞がきちんと検査・処理され、有効に活用されることを望みます。AABB認証施設ではドナーの適格性評価や検体管理が厳密に行われているため、ドナーは「自分の提供が安全に扱われ、誰かの役に立つ」という安心感を得られます。

また認証基準にはドナーへの説明責任やプライバシー保護など倫理面の配慮も含まれているため、ドナーの権利と安全も守られています。これはドナーからの信頼を高め、献血や細胞提供への協力を促進する効果もあります。

実際、AABB認証を取得している臍帯血バンクではドナー募集時にその旨を説明し、提供者の理解と安心を得る工夫をしています。

さらに、AABB認証制度の普及は社会全体にも好影響を与えます。

輸血や細胞治療に対する一般の人々の信頼性が向上し、必要なときに治療をためらわず受けられるようになります。例えば「輸血で感染症にかかるかも…」という不安が軽減されれば、患者は安心して治療を受けられますし、家族も心配を減らせます。

また、医療機関同士で安全な血液・細胞を融通し合う体制が整えば、災害時や緊急大量出血時にも迅速な医療対応が可能となり、ひいては多くの命が救われます。AABB認証が担保する高品質な血液・細胞医療サービスは、患者・ドナーという直接の関係者のみならず、社会全体の医療水準向上と安全な医療インフラ構築に貢献していると言えるでしょう。

関連する国際機関や規制当局

AABBは米国発祥の団体ですが、その基準と認証制度は国際的にも広く認知・採用されています。

米国食品医薬品局(FDA)は国内の血液事業者を規制する立場にありますが、AABB StandardsとFDA規則は相補的関係にあり、AABB認証取得はしばしばFDA査察への準備や遵法状態の維持に役立っています。

FDA自体もAABBと協力関係にあり、AABB年次会議に職員を派遣したり、ガイダンス策定にAABB専門家の意見を取り入れたりしています。また、米国赤十字社や各州の血液センターはほぼ例外なくAABB認証を受けており、国内医療におけるデファクト標準となっています。

国際的には、AABBは各国の血液サービス機関と連携しています。

例えばカナダやシンガポール、中東諸国の一部の血液センター・臍帯血バンクもAABB認証を取得しています。日本でも民間臍帯血バンクがAABB認証を取得した例があり、これは日本国内の許可に加えて国際水準の品質を追求した結果です。

ほかに、同分野の国際認証としてFACT(細胞治療認定財団)やJACIE(欧州の細胞療法認証)がありますが、AABBは特に輸血・バイオセラピー全般をカバーする包括的な団体として位置づけられます。WHO(世界保健機関)も安全な輸血推進の中でAABBの取り組みを参考にしており、ガイドライン作成や発展途上国支援でAABB基準に準じた枠組みを導入する動きがあります。

例えばWHOの「安全な血液のための品質システム」ではAABBなどの国際基準をモデルに各国が品質保証プログラムを構築することを推奨しています。

まとめると、AABBは業界団体でありながら実質的な国際認証機関として機能しており、FDAなどの規制当局やWHOのような公的機関、他の認証団体ともネットワークを形成しています。AABB認証取得は一施設ごとの取組ですが、その集合体が国内外の血液・細胞医療の安全網を形成し、公的規制を補完・強化しています。

今後もAABBはグローバルな視点で基準を進化させ、医療の信頼性向上に寄与し続けることでしょう。